– 生前贈与 は今後使えなくなるのか –

生前贈与はその年の1月1日から12月31日までに贈与で得た金額の合計が110万円以下の場合、非課税となる制度です。

1年ごとに非課税枠が更新されるので、相続税対策として多くの方に利用されています。
しかし、近年ではその生前贈与の非課税枠が「使用できなくなる」と言われています。

きっかけは、2020年に発表された税制改正大綱。
その中で、相続税と贈与税の仕組みの見直しが言及されたことに拠ります

続く2021年度の税制改正でも明確な見直し案が盛り込まれなかったものの、贈与税にはしっかりと触れられており、いつ具体的な改正に踏みこんでもおかしくないといった状況です。

 

生前贈与とは

まず生前贈与という制度を、今一度おさらいしておきましょう。

生前贈与とは、贈与者の存命の内に財産を特定の誰かに渡すことです。
渡すのは配偶者や子供だけでなく、友人や会社の同僚等、贈与者が好きに選べます。

財産の一部を生前に移動させておけば、相続時の財産総額も減るので、相続税の節税になるわけです。
しかし、生前贈与も一定の金額を超えれば、税金が課されてしまいます

生前贈与は贈与税の課税方式によって以下の2つに分かれます。
 

(1)年間110万円まで非課税の暦年贈与

 
1月1日~12月31日まで年間の贈与合計額が110万円以内なら、贈与税は非課税です。
これは「暦年贈与」もしくは「暦年課税制度」とも呼ばれます。

110万円を超える場合は贈与税が課税され、受贈者が翌年の2月1日から3月15日までの間に申告と納付を行います。

 

(2)相続時精算課税

 
相続時精算課税は60歳以上の両親や祖父母から18歳以上(成年者)の子や孫へ贈与を行う場合に適用できます。
合計2,500万円まで贈与税が非課税になります。(超過分には一律20%の贈与税が課税となります。)

非課税額が大きいですが、相続の際に贈与財産に対して相続税が課税されます。
(贈与税が支払われている場合、その分は相続税額から差し引かれます。)

この課税方式は、税金支払いを相続時に先送りしているだけの面もあり、節税対策として扱うにはデメリットが大きいと言えます

★参考記事:相続時精算課税制度は相続税対策になるのか【 生前贈与 】

 

生前贈与に関する動きとは

生前贈与制度が変わると言われるようになったのは、2020年に発表された「税制改正大綱」にある文章が記載されていたことに始まります。(文章は要約しています。)

 

“諸外国では、一定期間の贈与や相続を累積して課税することで、意図的な税負担の回避を防止している”

“このような諸外国の制度を参考に、今後は相続税と贈与税をより一体的に捉えて課税する観点から格差の固定化防止等に留意しつつ、資産移転の時期の選択に中立的な税制の構築に向けて、本格的な検討を進める”

 
この文章をもっと簡易的にすると、「将来的に納税者の格差をもっと無くしたいので、贈与税・相続税の課税を見直す」という内容になります。

日本以外の国を見てみると、資産を移動させるタイミングに関係なく、一定期間の相続や贈与に関しては累積課税できる制度があり、税負担の回避をできる限り防止する仕組みが設けられています。

例えば、ヨーロッパのフランスでは、生前贈与加算(相続開始前の一定期間の贈与を相続税課税価格に加算する規定)の年数が10年以上とされています。

また、アメリカでは、遺産課税方式を採用しています。これは、過去全ての贈与額合計額が相続時に課税対象となります。
要するにアメリカは生前贈与による非課税枠を設けていません。

「諸外国の制度を参考にする」と税制改正大綱の中で述べているため、「生前贈与加算年数の変更(3年よりも期間を広げる)」もしくは「生前贈与の年間非課税枠を無くす」という措置が取られる可能性が高いと言えます。

「相続税と贈与税をより一体的に捉えて課税する」というのは、相続で財産を渡しても、贈与で財産を渡しても、かかる税金の額を同じにするということで、生前贈与での節税効果を無くすことになります。

 

節税を考えるなら早めの対策を

あくまで今は検討段階ですから、いつ生前贈与制度がなくなるかはわかりません。
ただし、早ければ2022年の年末に具体案が発表されて、翌年に新制度が実施される可能性もあります。

そのため、生前贈与による節税をお考えの方は、早めに行動するべきでしょう。
できれば、相続税専門の税理士への相談をお勧めいたします。

 

まとめ

相続税と贈与税の一体化の具体的な内容も、始まる時期についても未だ不明確です。
本コラムの内容は、あくまで予想ですので、その点はご留意ください。

ただし、相続税と贈与税が一体化されていく方向は確実なので、法律の改正を見据えて、早い段階から対策を行うことは大切です。

 

 


 
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