親から一時的に預かったお金は 生前贈与 に該当するのか
「もの忘れが激しくなってきたのでお金を管理して欲しい」「入院費用などのお金を預かって欲しい」等々、ご高齢の両親からお金や金品を預かることはよくある話です。
この預かったお金はご両親のお金ですから、贈与に該当するのではないかと不安に思う方もいらっしゃるでしょう。
安心してください。ご両親からお金を預かっただけでは、生前贈与とはなりません。贈与ではないので、当然贈与税もかかりません。お金を自分の銀行口座に入金して保管していたとしても、同様です。
贈与とは、贈与者と受贈者の合意の下で成立する契約行為。よって、現金や預金通帳を預かって保管する行為は、贈与とは言えません。
ただし、そうは言っても、相続開始後にそれが贈与ではなかったことを第三者に示すための証拠は持っておいたほうが良いでしょう。
預かり金をする際の対策
お金を預かる際に大切なのは、「それが預かり金だとわかるようにしておくこと」「自身のお金とは明確に分けておくこと」「使用した分の詳細な記録を残しておくこと」です。
これらの処理をしておけば、税務署から贈与と誤解されません。加えて、相続時にも他の相続人から相続財産を使い込んでいたと思われません。
(1)覚書の作成
覚書を作成しておけば、お金を預かった事実を明らかにできます。証拠となるように、必ず預ける側と預かる側の署名をしておきましょう。
文書に細かいルールはないですが、お金を預かっている旨、金額、日付を書いておきましょう。
(2)専用口座の開設
預かった現金を自身の名義の口座で保管するのであれば、専用口座を開設しましょう。手間はかかりますが、口座を別にすることで、ご自身のお金と明確に区別できます。
ご両親の通帳を預かるケースでは、「代理人カード」の発行がお勧めです。代理人カードは名義人本人に代わって、ATM等で入出金ができるキャッシュカードです。
口座名義人が手続きをした後に利用ができます。
(3)使用した分の詳細な記録を残す
預り金を使ったのであれば、使途をメモしておきましょう。領収書やレシートがあれば必ず保管してください。 使途不明金は、税務署から疑われる材料になります。
なお、預かり金を自身のために使ってしまうと、贈与税の対象です。贈与には「みなし贈与」という、双方の合意無しでも、経済的利益の享受があった場合に贈与税が課税されるルールがあるからです。
預けた側が亡くなった場合はどうなる
お金を預けた側が亡くなってしまった場合、残ったお金はどうなるのか。もし預けた側が生前に「使いきれなかった分はあげる」等と言われていた場合、残金は死因贈与によって、取得したことになります。
相続税法では、死因贈与で取得した財産は通常の相続財産と同様のものとなるので、相続税が課税されますが、贈与税の対象ではありません。
もし、残ったお金に関して何の取り決めもされていない場合は、相続時に相続財産として遺産分割の対象になります。
税務署から疑われた場合は税理士に相談を
もし、税務署から相続税に関する問い合わせがあった時には、迷わず税理士に相談してください。税務署からの問い合わせは、電話の場合もあれば、「お尋ね」というアンケート方式で行われる場合もあります。
いずれの場合も、ご自身だけで対応してしまうと、税務調査に発展し余計な税金を支払う可能性が出てきたり、心身的にも大きな負担となります。
相続税の申告を税理士にお願いしている場合には、内容の記載漏れや不備が起きる可能性は少ないかもしれませんが、税務署から問い合わせがあれば、税理士に連絡をして対応してもらいましょう。
まとめ
両親から預貯金等を預かっただけでは贈与税の対象にはなりません。
贈与税は、原則として、双方合意の上、財産を無償で渡された時にかかる税金です。よって、親から通帳や銀行印を預かり、口座を管理するだけであれば、贈与税もかかりません。
しかし、税務署に余計な疑いを抱かせないために、それが預り金である旨の覚書を交わしておくことが望ましいでしょう。
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平成4年税理士試験合格。平成11年社会保険労務士試験合格。
さいたま市内の会計事務所に勤務後、現在地にて事務所開設。
平成20年㈱FP財産総合研究所を設立、令和元年不動産鑑定業者登録。
税理士、社会保険労務士、宅地建物取引士、FP1級技能士などの資格経験を生かして、主に資産運用・不動産の有効活用・相続対策等の相談を不動産業者、資産家から多数受けています。年間2回ほど北本市役所にて税務相談員を担当させていただいております。