相続財産に株式が含まれていた場合の対応 上場株式の場合
被相続人が亡くなった際に、相続人へ継承される遺産は現金や預貯金だけではありません。
特に多いのは、土地や建物といった不動産、株式などです。これらは現金とは異なり、それぞれ定められた方法に従い、相続税価格を評価しなければなりません。
本コラムでは、「株式」における、相続税評価の方法や対応について解説いたします。
相続財産の株で抑えるポイント
株式にも種類がありますが、相続税評価で大事なのはそれが「上場」であるか、「非上場」であるかです。
上場株式とは、証券取引所(株式市場)で取引できるものを指します。株式を公開すれば経営資金が集めやすくなるメリットがあるため、規模の大きい会社では上場している場合も多いです。
非上場株式とは取引所で公開取引がなされていないものです。公開されていないため、株式はオーナー経営者や役員が株式の多くを保有しているケースが大半です。
この上場株式と、非上場株式では相続税の評価方法が違いますので、相続では抑えるべきポイントになります。
株式はどうやって見つけるのか
故人が株を持っていたかどうか確認する方法を説明します。
まず、上場株式の場合、証券会社に開設された口座で管理されていることがほとんどです。証券会社は定期的に株主へ「取引報告書」を郵送しているので、故人宛に郵便物が届いていないか探しましょう。
ネット証券の場合ですと、郵送物が届かない場合もあるので、故人のメールからその手がかりを探すことになります。
郵便物が見つからない場合は、銀行の通帳を見ましょう。通帳の履歴に配当金の入金や証券口座との入出金の記録があれば、株を持っていることになるからです。
証券口座のある証券会社や支店を把握したら、今後の手続きのために相続開始日の「取引残高報告書」の発行を請求しておきましょう。
非上場会社の場合では、株券や株主の名前と持株数が記載された書類が発行されている可能性があります。それらを自宅などから探し、株管理の会社情報を取得しましょう。
なお、非上場会社は、相続人に対して株式の売渡請求を行うことが認められています。そのため、相続後に売渡請求をされる場合もあります。
相続人は、会社からの売渡請求を受けた場合、売却するかどうかは本人の意思で決定できます。
株がある場合の相続手続き
(1)上場株式の場合
上場株式の場合、証券会社など取引のあった会社で名義変更を行います。
手続きに必要な書類は被相続人の戸籍謄本・住民票の除票や相続人の戸籍謄本・印鑑証明書などです。遺産分割協議があった場合、遺産分割協議書も必要となります。
上場株式の手続きは証券会社ごとに内容が異なるので、事前に証券会社等に確認すると良いでしょう。
(2)非上場株式の場合
非上場株式の場合、株主管理は、株式発行会社がしています。
そのため、株式を発行している会社に連絡をしてから、指示に沿って手続きをすると良いでしょう。
上場株式の相続税評価方法
上場株式における相続税評価額は原則として「最終価格」が基準になります。最終価格とは、該当日の最後の取引でついた株価を指します。
以下の4つの価格のうち、「最も低い金額」が相続税評価額となります。
- 相続発生日(被相続人の死亡日)の最終価格
- 相続発生月の最終価格の平均額
- 相続発生月の前月の最終価格の平均額
- 相続発生月の前々月の最終価格の平均額
もし、相続の発生した日が土日や祝日の場合、取引所が休みのため最終価格が出ません。その際は「相続発生日に最も近い日」の最終価格を採用します。
例えば、土曜日が相続発生日だとすれば、金曜日の最終価格が採用されます。3連休の中日が相続発生日の場合は、連休前と連休後の各日の最終価格の平均額が採用されます。
最終価格と平均額の調査方法
最終価格を調べるには下記の方法があります。
- 新聞
- インターネット
- 証券会社に残高証明書を発行してもらう
新聞はアナログ的な手法のため、少々面倒です。最終価格のみ知りたいなら、Yahoo!ファイナンスなどのファイナンスサイトが便利です。
調べたい銘柄の株価表示をソートした後、該当日の日付を指定すれば、その日の終値がわかるので、簡単です。
平均額は、日本証券取引所のページの月間相場表を見れば、金額がわかります。
証券会社に残高証明書を発行してもらう場合は、手数料がかかります。しかし、証明書の情報は間違いのない情報ですから、メリットはあります。
新株割当てや配当支払いがある場合
株式は購入日の3営業日後に受け渡しがあります。よって、新株割当てや配当支払いを受ける権利を得るには基準日の3営業日前に株式を購入する必要があります。
3営業日前の購入でないと、権利確定に間に合わず、配当を受ける権利を有しません。これは「権利落ち」の状態です。
通常、上場株式の新株の割当てがある場合、株式数の増加や配当の支払いが行われることを見込んで、株価は下がります。
相続開始日が権利落ちの日から基準日までの間にある場合、前述の評価方法を採用してしまうと、実質的な株価は権利落ちの前と変わっていないのに、不当に低く評価される恐れがあります。
そのため、相続開始日が権利落ちの日から基準日までの間にある場合は、権利落ちの日の前日以前の終値を採用します。
まとめ
株式投資を行っている方や中小企業の経営者が亡くなった場合、株式が遺産に含まれる可能性は高いでしょう。
株式は上場か非上場かで相続税評価も異なるので注意が必要です。
今回は上場株式の評価方法を解説しました。次回のコラムでは非上場株式の評価方法についても説明いたします。
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平成4年税理士試験合格。平成11年社会保険労務士試験合格。
さいたま市内の会計事務所に勤務後、現在地にて事務所開設。
平成20年㈱FP財産総合研究所を設立、令和元年不動産鑑定業者登録。
税理士、社会保険労務士、宅地建物取引士、FP1級技能士などの資格経験を生かして、主に資産運用・不動産の有効活用・相続対策等の相談を不動産業者、資産家から多数受けています。年間2回ほど北本市役所にて税務相談員を担当させていただいております。