遺言書は、遺言者の思いや意志を、相続という形で具体的に反映させるための大切な手段です。その実現を担うのが「遺言執行者」と呼ばれる人です。遺言に書かれた内容に従って、必要な手続きを行っていく役割を担います。
遺言執行者には、遺産の管理や処分など、遺言の実現に必要な範囲で、法律上の権限と義務が認められています。
こう聞くと、遺言執行者が相続に関するほとんどのことを代行できるのではないか?と思うかもしれません。しかし実際には、できることとできないことがあります。
とくに気をつけたいのが、「相続税の申告」です。時間も手間もかかるこの手続き、遺言執行者にお願いできるのでしょうか?
遺言執行者を立てる意味とは
遺言執行者とは、遺言書の内容をきちんと実現させるために活動する人です。相続人や受遺者の代理人として動くことができ、手続きの円滑化に一役買ってくれます。
例えば、複数の相続人がいるケースでは、各自が書類に署名・押印したり、必要書類を集めたりするのはなかなか大変です。しかし、遺言執行者がいれば、その人が代表として手続きを進められるため、相続人の負担を大きく減らすことができます。
また、遺言執行者を選任しておくことで、不動産の名義変更を放置することを防いだり、他の相続人が勝手に財産を処分するのを抑止したりする効果もあります。
執行者は、相続人の中から選んでもいいですし、それ以外の第三者でも問題ありません。未成年者や破産者といった法律上の欠格事由に該当しない人であれば、誰でも就任可能です。
遺言執行者ができること・できないこと
遺言執行者に認められている主な業務は、以下のようなものです。
- 執行者に就任した旨と、遺言の内容を相続人へ通知すること
- 被相続人の戸籍を調べ、相続人を確定させること
- 相続財産の調査と目録の作成
- 遺言に従った手続きの実施(不動産登記、預金の解約・払戻しなど)
これらの手続きは、遺言書の内容に基づいて動くものなので、執行者が行うことができます。
一方で、「相続税の申告」については、遺言執行者であっても行うことができません。
というのも、相続税の申告・納税義務は、財産を実際に受け取る相続人や受遺者に個別に課されているからです。執行者が代理で申告する権限は認められていません。
相続税の申告は、相続が始まったこと(=死亡)を知った日の翌日から10ヶ月以内に行う必要があります。申告が遅れると、延滞税や加算税が課されることもあるため、注意が必要です。
遺言執行者にしかできないこともある
執行者にしかできない手続きもあります。代表的なのが次の3つです。
- 子の認知…遺言によって非嫡出子(婚外子)を認知することができますが、その手続きは遺言執行者が行います。認知届の提出は、就任から10日以内に行わなければなりません。
- 推定相続人の廃除またはその取消し…推定相続人に、著しい非行や虐待、侮辱などがあった場合、遺言によって相続権を剥奪することができます。この手続きの実行も、執行者の役目です。厳密にはこの手続きについては、他の相続人でもできますが、執行者を指定しておく方が望ましいと言えます。
- 特定遺贈の実行…遺言によって特定の人に不動産などの財産を贈与する場合(特定遺贈)は、執行者が登記などの実務を担います。これは民法の改正によって、執行者だけができる手続きと明記されました。
専門家に執行者を依頼するメリット
遺言執行者は誰でも選べるとはいえ、実際には弁護士や司法書士、税理士といった専門家に依頼するケースも多く見られます。
相続は多くの人にとって初めての経験ですし、必要な手続きが複雑で分かりにくい場面もあります。その点、相続のプロに依頼すれば、手続きがスムーズに進み、ミスや遅れの心配も少なくなります。
さらに、家族や親族間のトラブルを防ぐという面でも、専門家が中立的立場で動いてくれることは大きな利点です。感情的になりやすい相続の場面で、相続人の一人が執行者になることで軋轢が生まれてしまうこともあります。
もちろん、専門家に依頼する場合は報酬が発生します。しかし、費用以上の安心感や効率性が得られる可能性は高いでしょう。いくつかの事務所に相談し、信頼できるところを選ぶことをおすすめします。
まとめ
遺言執行者は、遺言内容の実現に向けて必要な手続きを進める大切な役割を担います。ただし、相続税の申告だけは相続人や受遺者にしかできないため、注意が必要です。
トラブルを避け、スムーズな手続きを目指すなら、遺言書の作成時に遺言執行者の指定も検討しましょう。
そして、可能であれば、相続の専門家に依頼するのも一つの安心材料になります。
相続手続き・相続税対策・遺言書作成・生前贈与など、相続に関するお悩みは(株)FP財産総合研究所までご相談ください。
年に数回、北本市役所にて税務相談員を受け持っている経験豊富な税理士が対応させていただきます。
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平成4年税理士試験合格。平成11年社会保険労務士試験合格。
さいたま市内の会計事務所に勤務後、現在地にて事務所開設。
平成20年㈱FP財産総合研究所を設立、令和元年不動産鑑定業者登録。
税理士、社会保険労務士、宅地建物取引士、FP1級技能士などの資格経験を生かして、主に資産運用・不動産の有効活用・相続対策等の相談を不動産業者、資産家から多数受けています。年間2回ほど北本市役所にて税務相談員を担当させていただいております。
自分の死後、大切な人たちに想いをきちんと届けるために、遺言書を準備しておこうと思う方は増えています。
遺言書にはいくつかの種類があり、その形式によって作成方法や必要な手続きが異なります。中でも「公正証書遺言」や「秘密証書遺言」では、法律上、証人を立てなければなりません。
ただし、証人であれば誰でも良いというわけではなく、選ぶ相手にはいくつか条件や注意点があります。ここでは、証人が必要な遺言の種類と、それぞれにおける証人の役割、選び方のポイントについて解説します。
証人が必要な遺言の種類と特徴
遺言書の中でも「公正証書遺言」と「秘密証書遺言」は、作成時に2人の証人の立ち会いが求められています。
それぞれの遺言方式について、特徴を簡単に整理しておきましょう。
(1)公正証書遺言
こちらは、公証役場で公証人が作成を代行する遺言です。手続きを進める際には、あらかじめ遺言内容について公証人と打ち合わせを行い、当日は2名の証人を同席させて作成します。
主な特徴は以下の通りです。
- 内容の聞き取りは公証人が行い、本人の意思に基づいて文書にしてくれる
- 手数料がかかる
- 証人2人の立会いが必須
- 作成後、遺言の原本は公証役場で保管される
- 遺言の無効リスクや改ざん、紛失の心配がない
- 相続開始後の「検認」が不要
メリットは、何よりも遺言が確実に残る点です。作成ミスによる無効や改ざんのリスクが極めて低いので、実際に多くの人がこの形式を選んでいます。
一方で、費用がかかり、証人の依頼や日程調整などの手間がある点はデメリットとも言えるでしょう。
(2)秘密証書遺言
秘密証書遺言は、遺言内容そのものを他人に知られたくない場合に選ばれる方法です。
中身は本人が作成し(手書きでもパソコンでも可)、封をした状態で公証役場に持参し、そこで「確かに遺言書は存在します」という証明をしてもらいます。この手続きの際にも、2名の証人が必要です。
特徴は以下の通り。
- 中身は本人が自由に作成できる(代筆も可)
- 内容を誰にも見せる必要がない
- 公証役場では存在だけを証明
- 遺言の原本は本人が保管
- 相続が発生した後、「検認」という手続きを経ないと開封できない
メリットとしては内容を秘密にできる点ですが、検認が必要で、原本管理を自分でしなければならないため、当然ながら紛失や改ざんのリスクが起きます。
デメリット部分が多いので、近年は他の形式に比べて利用者は減少しています。
証人として認められる人とは
遺言書に立ち会う証人には、法的な要件が定められています。以下に該当する方は、証人になることができません。
- 18歳未満の未成年者
- 遺言者の配偶者・子・孫などの推定相続人、遺贈を受ける人(受遺者)およびその配偶者・直系親族
- 公証人と親しい関係にある人(4親等内の親族・配偶者・職員など)
簡単に言えば、遺言によって利益を得る可能性がある人や、公証人と利害関係がある人は証人にはなれません。これは中立性を保つための配慮です。
証人の主な役割
証人として立ち会う際には、ただそこにいるだけではなく、次のような役割が求められます。
- 遺言者本人であることを確認する
- 遺言者が判断能力を有していることを確認する
- 遺言が本人の意思に基づいていることを確認する
とくに公正証書遺言では、これらの判断が非常に重要です。後に裁判になった際、証人が証言を求められるケースもあります。
出頭要請を受けた場合、基本的には断ることはできません。
証人の選び方と注意点
では、実際に誰を証人として選べばよいのでしょうか。以下に代表的な候補を紹介します。
(1)親族を選ぶ場合
親しい関係にある親族は依頼しやすく、費用も発生しないことが多いです。ただし、推定相続人やその配偶者・直系親族は不可なので注意しましょう。
また、内容によっては親族間でトラブルになる可能性もあるため、慎重な判断が必要です。
(2)友人を選ぶ場合
友人は法的に利害関係が生じにくいため、中立性が保ちやすく、証人に適しています。
長年の信頼関係がある相手なら、遺言の内容も尊重してくれるでしょう。ただし、将来的に裁判などに巻き込まれる可能性もある点は認識しておきたいところです。
(3)専門家に依頼する場合
弁護士や司法書士、税理士などの専門家を証人に選ぶこともできます。中立性や守秘義務が保証され、内容についてのアドバイスも得られるため、安心感は大きいでしょう。
その分、費用はかかりますが、信頼性を重視するなら有力な選択肢です。
(4)公証役場で紹介を受ける場合
証人が見つからない場合は、公証役場に依頼すれば紹介してもらえます。1人あたりの手数料は6,000〜7,000円ほど(地域や財産の内容によって変動あり)。
専門家に個別で依頼するよりも安価です。
まとめ
遺言は、故人の最終メッセージとも言える大切なものです。そして、そこに関わる証人の存在もまた、遺言の信頼性を支える要の一つです。
親しい人に頼むか、専門家に依頼するか、どの選択がベストかは人それぞれですが、「その人が本当に適任かどうか」をよく考えて決めることが、トラブルのない円満な相続への第一歩です。
少しの手間をかけることで、大切な想いをしっかりと未来に託すことができるでしょう。
相続手続き・相続税対策・遺言書作成・生前贈与など、相続に関するお悩みは(株)FP財産総合研究所までご相談ください。
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平成4年税理士試験合格。平成11年社会保険労務士試験合格。
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税理士、社会保険労務士、宅地建物取引士、FP1級技能士などの資格経験を生かして、主に資産運用・不動産の有効活用・相続対策等の相談を不動産業者、資産家から多数受けています。年間2回ほど北本市役所にて税務相談員を担当させていただいております。
生前贈与は両親や祖父母が子や孫に対して、「生きているうちに」お金を渡す行為のことです。
うまく活用することで、相続財産を減らし、最終的に遺族が払う相続税を抑えることができます。
通常、生前贈与には「年間110万円まで非課税」という基礎控除があり、それを超えた分に贈与税がかかります。しかし、実はこの「贈与税」がかからないケースが他にも存在します。それが「扶養義務者からの都度贈与」です。
今回は、知っておくと節税につながる「都度贈与の仕組み」について、その根拠も含めて解説いたします。
生前贈与とは?基本のルールをおさらい
生前贈与とは、亡くなる前に自分の財産(お金や不動産など)を家族などに渡すことをいいます。(渡す相手は贈与者の自由です。)
相続と違い、生前に意思を持って財産を移転できるため、相続税対策としてよく利用されています。
生前贈与には、以下の形があります。
(1)暦年課税(通常の生前贈与)
1月1日~12月31日までの1年間に、1人あたり110万円まで非課税になる制度。超えた部分には贈与税がかかります。
こちらがいわゆる通常の生前贈与です。なお、1年間の贈与額が110万円以下の場合、贈与税は課せられませんし、申告も不要です。
(2)相続時精算課税
こちらは、子供や孫に対しての贈与が2,500万円まで非課税になる制度です。
控除額が高くお得に思えますが、贈与された資産は贈与者が亡くなった時にその贈与財産の贈与時の価額と相続財産の価額を合計した金額から相続税額を計算し、相続税として納税しなければなりません。
つまり、払うべき税金を相続まで延期する制度であり、2,500万円までが完全に無税になるわけではありません。
この制度は早期の財産移転を促進させるために創設された制度で、相続前にまとまった資金を実子や孫に贈与したい場合に利用されます。
(3)特例制度を利用した贈与
生前贈与にも、各要件を満たすことで高額の控除が可能となる特例制度があります。
例として住宅取得のための資金、教育資金、結婚・子育て資金など。各制度には細かい要件があるので注意が必要です。
なお、特例を利用して贈与税が無税となっても、申告は必要です。
贈与税がかからない「扶養義務者からの都度の贈与」とは?
前述した贈与の方法も非常に有効ですが、今回注目したいのは、それ以外でも贈与税がかからない「例外的なケース」があるということです。
それは扶養義務者が生活や教育を目的として、必要なお金を都度に渡す贈与です。
贈与者が受贈者の扶養義務者で、受贈者の生活や教育のためにされる贈与には税金がかかりません。国税庁のHPにも贈与税がかからないケースの一例として記載されています。
この仕組みは、法律に基づいた正式な税制上の取り扱いであり、決して「抜け道」ではありません。適切に利用すれば、贈与税の負担を避けながら、子や孫の生活をサポートできます。
「扶養義務者」とは誰のことか
扶養義務者とは、以下のような家族関係にある人を指します。
- 配偶者同士(夫や妻)
- 直系尊属(父母と子供、祖父母と孫など)
- 兄弟姉妹
- 三親等内の親族で生計を共にしている人
つまり、祖父母が孫に生活費を援助したり、親が子供の教育費を負担したりするのは、贈与税の対象にはならないのです。ただし、これにはいくつかの重要な条件があります。
非課税となる条件は「都度・必要な額」であること
都度贈与のポイントは、「必要な時に、必要な額のみを渡す」ということです。例として、以下のようなケースは非課税になります。
- 子どもの入学時に授業料や制服代を支払う
- 毎月の家賃や食費として仕送りする
- 孫の通学定期券代をその都度渡す
逆を言えば、一括でまとめて多くのお金を渡したり、使い道が明確ではない資金を贈与すると、贈与税が課税される可能性があります。
- 将来の教育費として、まとめて1000万円を渡す
- 月の生活費として20万円を送ったが、そのうち10万円を貯金していた
上記のようなケースでは贈与の課税対象になります。
非課税となる資金の範囲
資金の範囲は大きく分けて生活費と教育費になります。
どちらも具体的な用途が細かく決められています。
(1)生活費として非課税になるもの
- 家賃や食費、光熱費
- 結婚式の費用(式場代、衣装代、食事代など)
- 出産にかかる病院費用や準備費用
- 家具や家電など新生活の準備費用
- 引っ越し代や交通費
生活費は必要な範囲内の金額でなければなりません。生活費を過剰に超える仕送りをしている場合は、超過分に対して贈与税が課税されます。
(2)教育費として非課税になるもの
- 入学金や授業料
- 教科書・教材代
- 通学のための交通費(定期券代など)
- 塾や習い事の月謝
- 修学旅行や学校行事の費用
- 受験料などの学校関連の支出
こちらも必要な範囲内を都度贈与すれば税金はかかりません。しかし、祖父が幼稚園に入園した孫に対して大学までの教育費をまとめて渡すのはダメです。
まとまった資金を一括で渡したいのであれば、贈与の特例制度を利用した方が良いでしょう。
まとめ
扶養義務者からの都度贈与は非課税です。正しい方法で行えば贈与税は一切かかりません。ただし、「一括ではなく、都度必要な分だけ」という原則を忘れずに運用しましょう。
将来的により大きな財産を移転したいと考えている場合、非課税の特例制度(教育資金一括贈与、住宅資金の贈与など)や、生前贈与の計画的な活用も検討するとよいでしょう。
大きな金額の贈与を検討する際には、税理士などの専門家に相談することをおすすめします。制度を正しく理解し、安心して大切な家族に資産を渡していきましょう。
相続手続き・相続税対策・遺言書作成・生前贈与など、相続に関するお悩みは(株)FP財産総合研究所までご相談ください。
年に数回、北本市役所にて税務相談員を受け持っている経験豊富な税理士が対応させていただきます。
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平成4年税理士試験合格。平成11年社会保険労務士試験合格。
さいたま市内の会計事務所に勤務後、現在地にて事務所開設。
平成20年㈱FP財産総合研究所を設立、令和元年不動産鑑定業者登録。
税理士、社会保険労務士、宅地建物取引士、FP1級技能士などの資格経験を生かして、主に資産運用・不動産の有効活用・相続対策等の相談を不動産業者、資産家から多数受けています。年間2回ほど北本市役所にて税務相談員を担当させていただいております。
相続では親が住んでいた家を相続するケースがあります。
遺族の誰かがその家に住まない場合は「空き家」となってしまいます。空き家のまま放置してしまうと、固定資産税もかかりますし、他にも様々な問題が発生します。
特に老朽化した家は、倒壊の危険性や、周囲環境への悪影響も大きいため、放置することは避けなければなりません。
実際、日本の国内には利用されていない空き家が多くあり、社会問題にもなっています。
こういった状況から、国は相続や遺贈によって取得した空き家を売却する際に、一定条件を満たせば「譲渡所得から最大3,000万円を控除できる」特例制度を設けています。
相続で取得した空き家を持て余している方、売却を検討している方にとっては、ぜひ活用したい制度です。
空き家を放置することで起きる問題
空き家は管理が不十分であることが多く、建物やその周辺の環境の劣化が進みやすいと言えます。よって、以下のようなリスクを持っています。
- 建物の老朽化:日々の手入れがされないことで、屋根や外壁、基礎部分が急速に傷みます。傷んでいくと資産価値はどんどん下がり、売却も難しくなっていきます。
- 治安の悪化:人が住んでいない家は、不法侵入者や空き巣のターゲットになりやすく、犯罪の温床になることもあります。
- 景観の悪化:建物周辺の雑草が生い茂ったり、外観が朽ちてくることで、近隣住民にも迷惑がかかります。
- 損害賠償責任の可能性:建物の老朽化が進めば、家が倒壊する可能性があります。倒壊時に隣家などに被害を及ぼした場合、損害賠償を求められるリスクもあります。
上記のようなリスクを避けるため、空き家の活用・処分については早めに検討しなければなりません。選択肢としては以下のようなものがあります。
- 家を売却する
- 建物を解体して土地のみ売却する
- 賃貸に出して活用する
- 更地にして駐車場とする
この中で、売却を考える場合、「空き家特例」を利用することで、大幅な節税も可能となります。
空き家特例とは?最大3,000万円が控除される制度
空き家特例は、相続や遺贈で取得した被相続人が住んでいた空き家やその土地を一定期間内に売却すれば、譲渡所得額から最大3,000万円を控除できる制度です。
制度を利用する場合、空き家の要件、売却時の状況要件を満たさなければなりません。
譲渡所得は次の計算式で求められます。
譲渡取得=譲渡価格(収入金額)−必要経費(取得費+譲渡費用)−特別控除額
- 取得費…不動産の購入価格や購入時の諸経費(仲介手数料、登記費用等々)。
- 譲渡費用…不動産売却時にかかった費用(不動産業者への仲介手数料、測量費など)です。
もし、不動産の取得費が不明な場合、譲渡価額の5%を概算取得費としても問題ありません。
空き家特例の要件
(1)家屋の要件
- 相続開始前に被相続人が一人で暮らしていた自宅
- 1981年(昭和56年)5月31日以前に建てられた区分所有建築物以外の建物
- 相続後、その建物を居住・賃貸・事業用に使用していないこと
- 空き家を相続または遺贈によって取得していること
この特例はその名前の通り「空き家となった相続不動産」の処理を促すための制度です。よって、適用可能な家屋は、故人が一人で暮らしていた住宅だけとなります。
(2)譲渡する際の要件
- 譲渡対価額の合計が1億円以下
- 耐震リフォーム済もしくは建物を取り壊した状態で売却する
- 相続開始から3年を経過した年の12月31日までに売った
- 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例や収用等の場合の特別控除など、ほかの特例の適用を受けていない
- 売却先は子供や配偶者以外の第三者であること
特例対象となる家屋は売却金額が1億円を超えないものだけです。売却が複数回の場合や複数の相続人で売る場合、各売却金額の合算で判定します。
その他のポイント
(1)被相続人が老人ホームに入所していた場合
被相続人が老人ホームに入所していた場合も条件付きで制度利用ができます。
- 被相続人が介護保険法に規定する要介護・要支援認定を受けていた
- 相続開始直前まで老人ホーム等に入所していた
- 老人ホーム等への入所時から相続開始直前まで対象家屋が事業、貸付、被相続人以外の居住の用に供されていたことがない
(2)リフォームの必要はあるのか
特例対象となる不動産は1981(昭和56)年5月31日以前に建てられたものです。
これは旧耐震基準で建築されたものであり、現在の基準を満たしません。
以前の制度ではそのまま売却しても特例適用にならず、売主側が耐震補強もしくは更地にして売却する必要がありました。
ですが、令和6年の改正で、「売却時点で耐震リフォームや解体が済んでいなくても、譲渡後の翌年2月15日までに買主側が処置を完了すればOK」というルールになりました。
この変更は解体費用を出せない相続人にとって、空き家を売却しやすくなったと言えます。
(3)制度利用の期限日
空き家特例は元々、令和5年12月31日で終了でしたが、4年間延長することになりました。
よって、令和9年12月31日まで適用が出来るようになっています。
(4)3人以上の相続人が譲渡する場合は控除額が減額
複数相続人が譲渡をしても、各々で特例の適用が可能です。
しかし、3人以上の相続人で譲渡する場合、各々2,000万円までが控除の上限となります。
確定申告の際の注意点
この特例を使って不動産を売却した場合、確定申告時にはさまざまな書類の提出が必要です。たとえば、被相続人が一人で住んでいたことを証明する書類や、耐震改修の証明書、建物の登記事項証明書などです。
申告ミスや書類の不備があると、特例が適用されないこともあるため、不安がある場合は税理士に相談して申告を依頼することをお勧めします。
まとめ
- 空き家を相続した場合、放置すると様々なリスク(倒壊、犯罪、景観悪化、損害賠償など)がある
- 空き家を売却する際には「空き家特例」を使うことで譲渡所得から最大3,000万円が控除され、税負担を大きく減らせる
- 特例の適用には建物の築年数や使用状況、売却時の条件など厳密な要件を満たす必要がある
- 書類の準備が煩雑なため、確定申告は専門家のサポートを受けると安心
空き家をそのままにしておくと様々な問題を抱えることとなります。早めに対処することも大事ですが、適切な制度を活用して、大切な相続財産を無駄なく活かしましょう。
相続手続き・相続税対策・遺言書作成・生前贈与など、相続に関するお悩みは(株)FP財産総合研究所までご相談ください。
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相続税には、一定の条件を満たすことで大きな節税が可能となる「小規模宅地等の特例」という制度があります。この制度を利用すれば、相続する土地の評価額を最大80%まで減額することができ、非常に大きな節税効果を得ることが可能です。
たとえば、評価額が1億円である土地でも、この特例を適用すれば評価額は2,000万円まで圧縮されるので、相続税の負担が大幅に軽減されます。ただし、減額幅が大きい反面、同制度を利用するための要件は細かく定められています。誰でもが安易に使えるわけではないのです。
小規模宅地等の特例が創られた目的は、故人(被相続人)の自宅や営んでいた事業に関する土地に高額な相続税が課されることで、生活を共にしていた相続人が住まいを失ったり、事業を継続できなくなるような事態を避けるためです。
遺族の生活を守る観点から設けられた制度ですから、対象となる土地の利用状況や相続人の関係性・居住状況などによって適用可否が判断されるのです。
なお、この特例の対象となるのはあくまで「土地」のみであり、建物部分には適用されない点には注意が必要です。
小規模宅地等の特例は故人が老人ホームに入所していても適用可能
小規模宅地等の特例では「特定居住用宅地(居住用に使っていた宅地)」で申請する場合、前提条件として「故人もしくは生計を一にする親族が住んでいた土地」でなければなりません。
しかし、故人が老人ホームで最期を迎えられる場合があります。近年では多いケースですが、このような場合も特例が適用できるかどうか気になりますよね。
実は故人が老人ホームに入所されていても、一定要件を満たせば小規模宅地等の特例が使えるのです。
まずは故人の条件についてです。
- 要介護認定もしくは要支援認定を受けている
- 老人福祉法等に規定する老人ホーム等に入所していたこと
- 入所後に自宅を他人に貸したりしていない
老人ホームへ入所していたのであれば、本人が要介護・要支援認定を受けていなければなりません。健康な状態で入居していても、特例の適用は受けられないのです。
入所する老人ホームも「老人福祉法や介護保険法に規定される施設」でなければなりません。無許可営業の老人ホームですと適用外となってしまいます。
そして、老人ホーム入所後に、空き家になった自宅を事業地や賃貸用として利用していないことが条件となります。これは、土地を事業用や貸付用にしてしまうと、特定居住用宅地として認められなくなるからです。特例の適用は可能ですが、減額率や適用範囲が変わってくるので注意しましょう。
小規模宅地等の特例が使える具体的なケース例
故人の適用条件が該当したら、次は実際の適用例を見てみましょう。
制度が適用されるかどうかは、被相続人や相続人の居住状況・関係性によって異なります。以下に代表的な4つのケースをご紹介します。
夫が老人ホームに入所し、妻が引き続き自宅に住み続けていたケースです。
→配偶者が土地を相続する場合、特例は無条件で適用可能です。しかも、配偶者には「相続後も引き続き住み続ける」という条件はありません。つまり、生前中に一緒に住んでいなくてもOKですし、相続後に自宅をすぐに売却しても問題ありません。
父が老人ホームに入所し、子供がそのまま自宅に住み続けていたケースです。
→子供が自宅を引き継ぎ、相続税の申告期限(相続開始から10ヶ月)まで居住を継続していれば適用可能です。
夫婦そろって施設に入所し、自宅が空き家となっていた場合でも、配偶者が相続すれば特例の対象になります。
親が施設に入り、自宅が空き家となった。別居していた子供がその空き家を相続するケースです。
→相続人が「家なき子特例」に該当すれば、特例の適用が可能です。
「家なき子特例」とは?
以下の条件を満たす相続人が対象です。
- 被相続人に配偶者および同居の親族がいない
- 相続開始の3年前から、自己や配偶者の持ち家に住んでいない
- 故人やその配偶者の所有する家に住んでいなかった
- 相続開始時点で、家を所有していない(借家などで生活していた)
自宅を賃貸物件にしていた場合、減額率が変化
故人が老人ホームに入所した後、自宅を第三者に貸していた場合、特定居住用宅地等ではなく、貸付事業用宅地として、小規模宅地等の特例を使うことができます。
ただし、貸付事業用宅地等だと、土地200㎡まで評価額が50%減額となります。また、貸す期間は3年以上となります。
入所していた場合の添付書類
故人が老人ホームに入所していたら、特例適用のために、小規模宅地等の特例適用の添付書類に加えて、以下の書類も添付して提出します。
- 死亡日以後に作成された被相続人の戸籍の附票の写し
- 介護保険の被保険者証の写し、障害福祉サービス受給者証の写しなど、被相続人の要介護認定・要支援認定等の事実を証明する書類
- 老人ホームの入所契約書など、施設の名称、所在地等が記載された書類
まとめ
小規模宅地等の特例は故人が老人ホームに入所していても適用されます。
ただし適用される条件として、要介護認定または要支援認定を受けていたこと、認可された老人ホーム(福祉施設等)に入所していたことに加えて、相続人の要件も満たす必要があります。
要件についてもっと知りたい方は、専門の税理士に相談してください。
相続手続き・相続税対策・遺言書作成・生前贈与など、相続に関するお悩みは(株)FP財産総合研究所までご相談ください。
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平成4年税理士試験合格。平成11年社会保険労務士試験合格。
さいたま市内の会計事務所に勤務後、現在地にて事務所開設。
平成20年㈱FP財産総合研究所を設立、令和元年不動産鑑定業者登録。
税理士、社会保険労務士、宅地建物取引士、FP1級技能士などの資格経験を生かして、主に資産運用・不動産の有効活用・相続対策等の相談を不動産業者、資産家から多数受けています。年間2回ほど北本市役所にて税務相談員を担当させていただいております。
故人の財産には、土地が含まれる場合が多いです。件数としては「自宅が建てられている土地」が最も多いですが、中には「賃貸用のアパートの土地」や、「事業用の土地」の場合もあります。
土地は、車や貴金属と比較すると高額になりやすいので、相続税が生じる可能性も高くなります。そのため、覚えておきたい制度が「小規模宅地等の特例」です。
同制度は、相続する土地の評価額を80%もおさえることができます。
小規模宅地等の特例の概要
相続が発生すると、遺産の総額次第で相続税が生じる場合があります。特に不動産、なかでも土地は高額になりやすいので、相続税額も大きくなりがちです。
そんな中、相続税の軽減に大きな効果を発揮するのが「小規模宅地等の特例」です。
この特例は、一定の条件を満たすことで、「相続税の対象となる土地の評価額を最大80%まで減額できる」制度です。評価額が下がるということは、支払うべき相続税そのものも大きく減るということになり、節税となります。
ケースバイケースですが、土地を相続すると、数百万円〜数千万円という高額な税金が発生することがあります。もし、相続人自身の財産が少なく、かつ故人の遺産に現金・預貯金がなければ、相続税を払うためにその土地を手放さなければならなくなる場合もありえます。
故人の自宅に一緒に住んでいた配偶者や子供がいる場合は、住む場所がなくなる可能性もあります。そういったことを防ぐために、被相続人が所有していた一部の土地については、一定条件を満たす限り、相続税評価額の大幅な減額が認められているのです。
ただし、この制度を適用するには土地の種類や使用状況、相続人の関係性や居住実態など、さまざまな細かい要件をクリアしなければなりません。
適用される土地の要件
(1)対象の土地
小規模宅地等の特例で対象となる土地は、主に以下の3種類に分けられます。
- 特定居住用宅地:被相続人または被相続人と一緒に住んでいた親族が生活していた土地
- 特定事業用宅地:被相続人が事業を営んでいた土地
- 貸付事業用宅地:人に貸していた土地(賃貸用の不動産など)
このうち、遺産の中に最も多いのが「特定居住用宅地」です。事業用地や賃貸用の土地を持っている方は少ないですが、自宅の建っている土地を持つ方は多いからです。
なお、別荘やセカンドハウスのような一時的に使用されていた土地は、小規模宅地等の特例の対象にはなりません。
また、対象の土地であっても相続が始まってから相続税の申告期限(10カ月)までの間にその土地を売却してしまうと、適用不可となります。特例を活用するのであれば、その期間中に引き続き該当地を利用する必要があるということです。
(2)面積と評価額の減額率
前述した対象となる土地の面積には、それぞれ上限が定められています。
- 特定居住用宅地:最大330㎡まで80%減額
- 特定事業用宅地:最大400㎡まで80%減額
- 貸付事業用宅地:最大200㎡まで50%減額
面積が上限を超えれば、上限面積分だけ評価額が減になります。
例えば、500㎡の居住用宅地が1億円で評価されていた場合、減額の対象となるのは上限の330㎡までです。
1億円-1億円÷500㎡×330㎡×0.8=4,720万円
と、評価額は約4,720万円まで下がることになります。全体として80%減とはなりませんが、それでもかなりの減額になります。
日本の一般的な戸建て住宅は、土地の広さが130㎡前後のケースが多く、一般家庭であれば、この上限に収まることがほとんどです。
貸付用の土地は減額率が低くお得感がないように見えますが、そもそも賃貸物件は相続時の評価計算方法自体に控除があるので、バランスが取れているとも言えます。
取得者の要件(特定居住用宅地の場合)
特定居住用宅地の場合、取得者(その土地を引き継ぐ相続人・受遺者)に以下の要件があります。
(1)配偶者
被相続人の配偶者が土地を取得する場合、特別な条件はなく、無条件で特例の適用を受けることができます。
生前に別居していた場合でも問題ありません。さらに、相続後にすぐ売却しても特例の適用が外れることはありません。
(2)同居親族
被相続人と一緒に住んでいた親族が相続する場合は、相続税の申告期限まで引き続きその土地に住み続ける必要があります。
この場合の同居の定義は、単なる住民票の一致ではなく、実際の生活拠点が同じであったかどうかが判断されます。
極端な例ですが、亡くなる直前の数日間だけ同居していたとしても、「その実態が確認できれば」特例の対象になります。ただし、相続後の10カ月間はそのまま住み続けなければなりません。
亡くなる前の居住期間は決まっていないものの、相続開始後の10ヶ月間はそこに住み続けなければいけないという点には注意です。
(3)その他の親族(家なき子特例)
被相続人と同居していなかった親族でも、特例を受けられる場合があります。いわゆる「家なき子特例」と呼ばれるもので、次のような条件をすべて満たす必要があります。
- 被相続人に配偶者や同居親族がいない
- 相続開始前3年以内に自分や近親者の所有する家に住んでいなかった
- 相続時点で住んでいる家を自分で所有していない
- 申告期限までその宅地を保有し続けていること
同居している他の相続人がいないという要件から、配偶者のいない故人が、一人で自宅に住んでいたような場合が該当します。
こちらの場合でも、相続開始後の10ヶ月間は該当の家に住み続けなければなりません。
小規模宅地等の特例では申告義務がある
特例を使う場合、たとえ相続税が発生しないケースでも、税務署に申告を行う必要があります。
相続税の基礎控除額は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で、これ以下であれば通常は申告不要ですが、小規模宅地等の特例を受けたい場合は、控除の有無にかかわらず必ず申告が必要になります。
手続きが漏れてしまうと、特例の適用が認められず、結果として高額な追徴課税を受ける可能性もあるため、注意が必要です。
まとめ
小規模宅地等の特例は、非常に効果的な相続税対策ですが、適用にはさまざまな条件があります。
土地の利用目的や取得者の属性など、細かい部分まで把握していないと正しく活用できません。
適切に利用すれば数百万円単位の節税も可能になるため、土地の相続が関わる場合は、できるだけ早いうちから、専門の税理士に相談することをおすすめします。
相続手続き・相続税対策・遺言書作成・生前贈与など、相続に関するお悩みは(株)FP財産総合研究所までご相談ください。
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税理士、社会保険労務士、宅地建物取引士、FP1級技能士などの資格経験を生かして、主に資産運用・不動産の有効活用・相続対策等の相談を不動産業者、資産家から多数受けています。年間2回ほど北本市役所にて税務相談員を担当させていただいております。
相続では、現金や不動産だけでなく、著作権やゴルフ会員権などの「権利」も財産として扱われ、相続税の対象となります。その権利には「電話加入権」もあります。
現在ではスマホの普及で固定電話も少なくなり、故人の財産の中に電話加入権が含まれるケースは稀ですが、電話加入権がある場合は、承継・中止の手続きと、申告のための相続税評価をしなければなりません。
相続税評価について、電話加入権は一般動産に含まれるので、原則的には個別評価となります。
ただし、現在では家庭用財産にまとめて一括で評価することとなっています。
電話加入権とは
電話加入権は、NTT(NTT東日本またはNTT西日本)のアナログ回線と契約する権利です。契約により回線が引きこまれれば、他の利用者と通話できる仕組みになっています。
なお、施設設置負担金というものがありますが、これは電話加入権と同じ意味を持ちます。施設負担金とは、加入者回線の建設費用の一部を前払い的に負担する仕組みです。負担金となっているものの、利用者の間での売買取引ができるため、「権利」ともされているのです。
戦後復興時より電話回線の普及が進んだため、電話加入権の所有者は日本全国にいます。
電話加入権は相続財産
電話加入権は相続財産となります。ただし、相続財産となるのは、その回線を引き続き使用する場合です。
引き継ぐ場合は相続財産として、相続税の課税対象になります。評価方法について、以前では以下の方法で価額を算出していました。
- 取引相場がある電話加入権…課税時期における通常の取引価額によって評価
- 取引相場がない電話加入権…売買実例価額等を基準に、電話取扱局ごとに国税局長が定める標準価額を採用する
- 特殊番号の電話加入権…上記二つのどちらかを元に評価した金額をベースとして、売買実例価額や精通者意見の価格を参考に評価額を決める
しかしながら、現在ではこれらの評価方法は廃止されています。なぜなら、近年では、電話加入権の取引相場が存在せず、国税庁の定める標準価格も10年以上、1500円(全国一律価格)から変わっていないからです。
要するに電話加入権をわざわざ個別評価する必要はないというわけです。
そのため、電話加入権は、基本的に1500円とし、他の家庭用財産に含めて一括評価します。
なお、加入権の取引が盛んだった頃は、「100番のような呼称しやすい番号」、「4989番などの嫌がる人が多い番号」などが「特殊番号」とされており、売買実例や精通者意見価格等を参考に評価していましたが、これも現在では廃止されています。
相続開始後の手続き
故人の自宅に電話がある場合、NTTに問い合わせるか、請求書を確認しましょう。加入権の有無が明確になったら、その権利を引き継ぐか、解約するかを選択します。
(1)承継の場合
法定相続人が電話加入権を引き継ぐ場合(同じ回線を引き続き使う場合)、NTTへ名義変更の手続きをします。
申請書に加え、相続人の本人確認書類、故人の死亡診断書、戸籍謄本などが必要ですが、手数料は発生しません。
詳しい手続きは、NTT東日本の公式サイト等で確認ください。
(2)解約の場合
電話回線の利用が不要であれば、手続きにより権利を抹消します。
解約手続きでも本人確認書類や死亡診断書などが必要となりますが、解約後は回線使用料や工事費の負担はなくなります。
(3)一時利用停止の場合
電話加入権の権利を保有したい場合、利用停止という選択もあります。
この方法では、権利は持ったまま最大10年間の利用停止が認められます。5年ごとに更新が必要ですが、利用停止中は使用料が発生しません。
相続税申告書への記載方法
電話加入権を相続するのであれば、少額であっても申告します。ただし、前述したように近年における標準価格は全国で1500円ですから、ほかの家庭用財産と一緒に、まとめて費用を計上することが一般的です。
なお、電話加入権自体は安いですが、他の家財を含めて考えるのであれば、評価額は10~50万円程度になります。前回のコラムでも説明しましたが、家財一式として一括で計上する場合、その金額は点数や内容によって変えるべきです。
まとめ
電話加入権は、相続財産の中でも少額であり、引き継ぎや抹消の手続きも決して難しくありません。ただし、相続財産である以上、手続きは忘れないようにしましょう。
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人が亡くなれば、その方が所有していた預金、有価証券、不動産、車などの資産は相続財産として、配偶者や子供に相続されます。
上記以外についても同様で、例えば、家具や家電製品、衣服等々、これらのものも相続財産に含まれます。
相続財産である以上、その合計額によって相続税が発生する場合があります。よって、原則的には相続税計算のために遺産を一つずつ評価しなくてはなりません。
ただし、衣服や家電製品までも個別評価すると、とても手間がかかります。品数が多い場合は相続税の申告が間に合わなくなってしまうでしょう。
このような点から、相続では、衣服など一般的に経済的価値が低いとされるものについては、一式でまとめて良いことになっています。
故人の衣服は家庭用財産に含まれる
相続財産には以下のものが含まれます。
- ○プラスの財産
- 現金、預貯金
- 不動産(土地・建物)
- 株式や債券などの有価証券
- 動産(家具、車、貴金属、絵画など)
- 著作権などの知的財産
- ○マイナスの財産
- 借金やローン、クレジット残債務
- 未払金(賃借料、水道光熱費等)
- 未払いの税金
この中で衣服は動産に該当します。そのため、基本的には相続財産となります。
そして、家にある一般動産の総称は家庭用財産と言います。
家庭用財産は衣服の他に家具、家電、楽器、貴金属、自動車、骨董品などが含まれます。
- ○家庭用財産の例
家電…パソコン・スマホ・テレビ・冷蔵庫・洗濯機・エアコンなど
家具…ソファー・テーブル・椅子・本棚・ベッドなど
衣類…洋服や着物・バッグ・靴など
美術品…絵画や骨董品など
貴金属等…貴金属・宝石・高級時計など
自動車…自動車・自動二輪車など
電話加入権…固定電話の契約形態に係るもの(現在では家庭用財産として評価します)
家庭用財産は相続税の課税対象
家庭用財産も相続税の課税対象です。そのため、一品ごとに評価をしなければなりません。
評価方法は以下の二つです。
- ○原則的な評価方法
相続開始時の時価を基に評価します。類似品の売買実例価額や専門家の意見を参考に価格を決定します。
○特例的な評価方法
時価が不明な場合は、新品の価格から経年劣化による減価償却費を差し引いて評価します。減価償却費は法定耐用年数を基に計算されます。
ただし、上記の評価をするかどうかは、一般的に経済的価値が低いかどうかで分けます。価値の低いものは「家財道具一式」としてまとめて評価をします。
価値のボーダーは「5万円」です。これは国税庁のHPにも記述があります。
「一般動産の価額は原則として、1個又は1組ごとに評価する。ただし、家庭用動産、農耕用動産、旅館用動産等で1個又は1組の価額が5万円以下のものについては、それぞれ一括して一世帯、一農家、一旅館等ごとに評価することができる。」
故人の衣服はどれも5万円以下の評価になることが多いので、「家財道具一式」としてまとめて評価をしても良いのです。ただし、少額だから計上しなくていいという訳ではないので注意しましょう。
ブランド品や着物に注意
一般的な衣服は5万円以下の評価となることが多いですが、ブランド品や高級着物は換金価値が高いため、5万円以上の評価になる場合があります。
この場合、専門業者に査定を依頼し、適正価格で評価しましょう。
一括計上はいくらぐらいにすべきか
前述した通り、故人の衣服は5万円をボーダーとして一括評価して良いことになっています。
では、いくらとするべきか。
家財道具一式で考えると、衣服の他にも、家具や家電が含まれます。それを考慮すると、評価額は10~50万円が妥当となります。金額は点数や内容によって変えましょう。
- 一人暮らし・所有物が少ない場合…10万円
- 一般的な家庭…10万円~30万円
- 高級家具・家電が多い場合…30万円~50万円
故人が1人暮らしで、所有物も多くない場合は10万円とし、高級家具を多く揃えていた場合であれば30万円〜50万円と多めに申告しましょう。
多くする理由は、税務署からの指摘を回避するためです。申告で本来よりも少ない金額で計上してしまうと、後に加算税を取られる恐れがあるからです。
国税局も家庭用財産の計上漏れに関して、軽視していないので注意が必要です。
まとめ
- 故人の衣服は家庭用財産に含まれる
- 家庭用財産は相続税の課税対象
- 原則的には個別評価となるが、5万円以下のものは「家財道具一式」として一括評価が可能
家庭用財産は少額で価値の低いものがほとんどであり、不動産等ほど評価が複雑ではありませんが、適切な金額を設定することが重要です。判断が難しい場合は、税理士に相談することをおすすめします。
相続手続き・相続税対策・遺言書作成・生前贈与など、相続に関するお悩みは(株)FP財産総合研究所までご相談ください。
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相続手続きは、被相続人の財産を引き継ぐために必要なものであり、多くの場合、金融機関での名義変更や不動産登記など様々な手続きが発生します。
その際、相続人は戸籍謄本や遺産分割協議書などの書類を何度も提出する必要があり、手続きの煩雑さが問題となることがあります。
こうした相続手続きの負担軽減のために、2017年より「法定相続情報証明制度」が導入されました。同制度の概要や手続きの流れ、メリット・デメリットについて解説します。
法定相続情報証明制度とは
法定相続情報証明制度とは、被相続人と法定相続人の関係を示す「法定相続情報一覧図」を法務局に提出し、認証してもらう制度です。一覧図の写しを取得すれば、金融機関や登記手続きなどで戸籍謄本の代わりに利用できます。
従来の相続手続きでは、各機関ごとに戸籍謄本を提出する必要がありましたが、本制度を利用することで、戸籍謄本の提出が不要となり、手続きが簡略化されます。
手続きの流れ
(1)必要書類の準備
以下の書類を準備し、管轄の法務局に提出します。
- 被相続人の戸籍謄本(出生から死亡まで)
- 被相続人の住民票除票または戸籍の附票
- 相続人全員の戸籍謄本
- 申出人の本人確認書類(運転免許証など)
- 法定相続情報一覧図(相続関係を示す図)
被相続人と、戸籍の記載から判明する相続人を一覧にした図「=法定相続情報一覧図」は相続人側で作成します。
書き方は法務局のWebページ「主な法定相続情報一覧図の様式及び記載例」を参考にします。
(2)法務局への申請
必要書類を管轄の法務局に提出します。申請は無料で行うことができ、郵送での申請も可能です。
(3)法定相続情報一覧図の認証
法務局が提出された書類を審査し、問題がなければ「法定相続情報一覧図」に認証を付与します。
認証された一覧図の写しは複数枚取得することができ、各手続きに使用することができます。
法定相続情報証明制度のメリット
(1)相続手続きの簡素化
これまでの相続手続きでは、銀行や法務局、不動産会社などに個別に戸籍謄本を提出しなければなりませんでした。
本制度を利用すれば、法定相続情報一覧図の写しを各機関に提出するだけで済むため、手続きを大幅に簡素化できます。
戸籍の束をわざわざ持参する必要がなくなるのです。
(2)複数機関での利用が可能
取得した法定相続情報一覧図の写しは、銀行や証券会社、不動産登記など、さまざまな手続きで利用可能です。
資料も1枚で済みます。法務局で必要な枚数を複数交付してもらっても、資料が嵩張ることはないでしょう。
(3)無料で利用できる
本制度は、法務局への申請費用がかからず、手数料なしで利用できるため、経済的な負担が少ない点も大きなメリットです。
なお、申出をして証明書を発行してもらった場合、その後5年間は再発行を申請できます。
(4)相続登記の促進
本制度により、相続関係の証明が容易になり、相続登記がスムーズに進むことが期待されています。特に、不動産の名義変更が迅速に行えるため、相続登記の未了によるトラブルを防ぐことができます。
法定相続情報証明制度のデメリット
(1)一覧図の作成に時間がかかる
登記所で認証をしてもらうには、申出人本人が「法定相続情報一覧図」を作成しなければなりません。法定相続情報一覧図には作成方法が決められています。
よって、正確に作成しなければならず、どうしても手間はかかってしまいます。
(2)認証には一定の時間がかかる
法務局の審査には時間がかかることがあり、通常1週間から10日程度の期間が必要です。相続手続きを急ぐ場合は、従来の方法で戸籍謄本を直接提出するほうが早い場合もあります。
(3)一部の金融機関で利用できない場合がある
多くの金融機関では法定相続情報証明制度を受け入れていますが、一部の機関では独自の手続きが必要となることがあります。利用前に各機関へ確認することが重要です。
(4)再発行は申出人のみ
法定相続情報証明書の申出後、一定期間であれば再発行が可能です。
ただし、再発行できるのは「当初の申出人本人のみ」だけです。他の相続人は証明書の再交付をうけられないので注意しましょう。
まとめ
法定相続情報証明制度は、相続手続きを効率化し、相続人の負担を軽減するために設けられた便利な制度です。無料で利用でき、複数の機関で同じ書類を使い回せる点が大きなメリットです。
しかし、一覧図の作成に手間がかかる点、認証に時間がかかる点、一部の金融機関で利用できない可能性があることにも注意が必要です。
相続手続きをスムーズに進めるためには、本制度を上手に活用しつつ、必要に応じて専門家に相談することをおすすめします。
相続手続き・相続税対策・遺言書作成・生前贈与など、相続に関するお悩みは(株)FP財産総合研究所までご相談ください。
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