遺産 の管理責任について 【2023年のルール改正適応版】
不動産は持っているだけで、税金や維持管理費が生じます。また、古い空き家等の場合は倒壊による損害賠償のリスクもあります。よって、相続財産に不要な不動産が含まれる場合は、売却等、早急な対策を取るべきです。
借金などマイナスの財産が多い、他に欲しい財産もないといったケースであれば、相続放棄をする選択もありますが、相続放棄には注意点があります。
相続放棄すると相続権がなくなるので相続財産は取得できなくなりますが、全ての相続人が相続放棄をすると、不動産管理をする方がいなくなります。
そのため、民法では、「相続放棄者は、ほかの相続人等が相続財産の管理を始めることができるようになるまで、自己の財産と同一の注意をもって財産の管理を継続しなければならない。」とも定めています。
つまり、相続放棄をしたからといって相続財産の管理義務から解放されるわけではないということです。
不動産所有にかかる費用
(1)固定資産税、都市計画税がかかる
未使用の空き地でも、所有していれば毎年税金が課税されます。
課税される税金は「固定資産税」と「都市計画税」で、各税額は下記数式にて算出されます。
都市計画税=固定資産税評価額×0.3%
もし、固定資産税評価額が2,000万円の空き地を所有していた場合は
固定資産税 2,000万円×1.4%=28万円
都市計画税 2,000万円×0.3%=6万円
となり毎年34万円もの税金を支払うことになります。
また所有している空き地が更地であれば、「非住宅用地」に該当するので「住宅用地」よりも固定資産税が高くなります。
(2)維持費用がかかる
不動産の維持には当然費用がかかります。
清掃等の費用がかかってくる他、不法投棄の被害にあった場合、その処分費用を負担しなければならない可能性もあります。
(3)近隣トラブルの原因となる
空き家や空き地の放置によって害虫が発生したり、天災が原因で建物が倒壊して隣地に損害を与えたりした場合、損害賠償が発生する可能性があります。
相続放棄とは
相続放棄とは遺産を引き継ぐ権利を手放す行為です。財産の中に借金が多く含まれるケースによく使われますが、他の財産も取得できなくなるので、扱いには慎重さが求められます。
手続きは相続開始を知ってから3ヶ月以内の熟慮期間内に行います。申し立てをすれば原則取り消しできません。
財産内容は関係ないので、相続財産に不動産があっても相続放棄はできます。
全員の相続放棄は要注意
不動産が財産に含まれるケースで全員が相続放棄をした場合は注意が必要です。
相続人全員が相続放棄をし、財産を誰も引き継がない場合、その財産は最終的に国庫に帰属します。しかし、不動産は「相続財産管理人(相続財産清算人)」が選任されるまで、相続人にその不動産を管理する義務が残ります。
不動産の持ち主ではないので、固定資産税は支払わなくても良いのですが、管理責任があるので建物が倒壊などしないようにしなければなりません。
ただし、2023年のルール改正により、相続放棄の管理義務の対象者が明確になりました。
これまでは全員が相続放棄した場合、最後に相続放棄した相続人が遺産を管理しなければなりませんでしたが、現行では「現に占有している」実態があった相続人に、管理責任が伴います。
「現に占有」とは例えば、被相続人の自宅に、被相続人と一緒に暮らしていた相続人です。または事務所として建物を借りていた等の場合は、相続財産である不動産を「現に占有」していたと言えるため、次に管理する人が見つかる間までに管理義務が生じます。
相続不動産の管理を免れるには
前述した通り、現行(2023年4月以降)は、相続放棄をした場合、現に占有している者でない場合には管理責任が免れることになっています。もし、占有していた場合、管理責任が残るので家庭裁判所で「相続財産管理人」を選任してもらわないといけません。
相続財産管理人は、相続人がいない場合に相続財産を管理・清算する存在で、申し立てを行うと、裁判所が弁護士などから選任してくれます。
ただし、選任には数十万円~100万円程度の予納金がかかってきますので、大きな負担となります。
現に占有する者が誰もいない空き家を、相続人すべてが相続放棄した場合、利害関係者(債権者など)や検察官が、清算人の選任申立てを行います。清算後、残った財産は国庫に帰属します。
相続放棄は慎重に
管理責任の問題が出てくるので、不要な不動産が財産に含まれているからといって、安易に相続放棄を選択するのはお勧めしません。
相続放棄は基本的に取り消しが効かないので、慎重に検討しましょう。
不動産が相続で問題になる場合は、できるだけ早いうちから対策をしておくべきです。
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平成4年税理士試験合格。平成11年社会保険労務士試験合格。
さいたま市内の会計事務所に勤務後、現在地にて事務所開設。
平成20年㈱FP財産総合研究所を設立、令和元年不動産鑑定業者登録。
税理士、社会保険労務士、宅地建物取引士、FP1級技能士などの資格経験を生かして、主に資産運用・不動産の有効活用・相続対策等の相談を不動産業者、資産家から多数受けています。年間2回ほど北本市役所にて税務相談員を担当させていただいております。