相続では配偶者は手厚く守られる ただし相続税対策には注意が必要

相続では被相続人の夫もしくは妻である配偶者が、最も優遇される存在です。
他の親族は被相続人との関係性から法定相続人になれる順番が決まっています。しかし、配偶者は被相続人に最も近い関係者として、必ず法定相続人になれます。
加えて、配偶者には相続税を大幅に減らす控除制度もあるため、ほぼ無税で相続財産を取得することができます。
ただし、安易に「今回の相続税がゼロになるから」という理由だけで、配偶者がすべての財産を相続してしまうと、結果としてご家族全体で大きな損をしてしまうかもしれません。
相続税対策では「次の相続」を考えることも大切だからです。
相続における配偶者の手厚い優遇措置
日本の民法や相続税法では、故人(被相続人)の財産形成に貢献し、また、残された生活を保障するという観点から、配偶者は非常に手厚く保護されています。
(1)常に「相続人」になる権利
まず、配偶者は常に法定相続人となります。子供(第一順位)やご両親(第二順位)、兄弟姉妹(第三順位)がいるかどうかに関わらず、配偶者様は必ず遺産を受け取る権利を持っています。(他の家族は順位に従って法定相続人になります。)
また、法律で定められた相続分の目安である「法定相続分」においても、配偶者は優遇されています。
相続人が配偶者と親の場合:配偶者2/3、親1/3
相続人が配偶者と兄弟姉妹の場合:配偶者3/4、兄弟姉妹1/4
このように、他の相続人と比べても多くの割合が認められています。
(2)控除額が大きい「配偶者の税額軽減」制度
相続税の計算において、配偶者には非常に強力な優遇措置があります。それが「配偶者の税額軽減」という制度です。
これは、配偶者が相続した財産のうち、「1億6千万円」または「配偶者の法定相続分相当額」のうち、どちらか多い金額までは、相続税がかからないというものです。
例えば、遺産総額が5億円あっても、配偶者が法定相続分である2億5千万円(1/2)を相続すれば、その2億5千万円全額に対して相続税はかかりません。遺産総額が1億6千万円以下であれば、すべての財産を配偶者が相続しても相続税はゼロになります。
この制度があるため、「配偶者が相続する限り、相続税の心配はほとんどない」と言われることも多いのです。
(3)配偶者居住権(2020年施行)
自宅の権利を「所有権」と「居住権(住む権利)」に分けて考えることで、配偶者が自宅に住み続けながら、他の財産(預貯金など)も相続しやすくする「配偶者居住権」という制度です。
これも配偶者の生活を守るための優遇措置の一つです。
「配偶者の税額軽減」の落とし穴
手厚い優遇措置があるため、「今回の相続(一次相続)では、ひとまず配偶者がすべての財産を相続して、相続税をゼロにするのが一番良いのでは?」と考えるのは自然なことです。
確かに、残された配偶者様の当面の生活を考えれば、できるだけ多くの財産を確保したいというお気持ちはよくわかります。
しかし、ここには大きな「落とし穴」が潜んでいます。それは、「二次相続」の問題です。
「二次相続」とは、その次に起こる相続(例えば、その後お母様が亡くなったケース)を指します。もし、一次相続で「配偶者の税額軽減」を最大限に使い、子供には財産をほとんど相続させなかった場合、どのようなことが起こるでしょうか。
二次相続では、以下の理由により、相続税の負担が非常に重くなる可能性が高いのです。
(1)相続人が減り、基礎控除が減る
相続税の基礎控除(「これまでは税金がかからない」というライン)は、「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で計算されます。
一次相続(父死亡時)の相続人は、母・子A・子Bの「3人」だったとします。基礎控除は3,000万+(600万×3人)=4,800万円です。
二次相続(母死亡時)の相続人は、子A・子Bの「2人」になります。基礎控除は3,000万+(600万×2人)=4,200万円となり、基礎控除の枠が減ってしまいます。
(2)「配偶者の税額軽減」が使えない
二次相続では、当然ながら「配偶者」は存在しません(相続人はお子様だけです)。したがって、一次相続であれほど強力だった「配偶者の税額軽減」(1億6千万円まで非課税)という最大の優遇措置が、一切使えません。
(3)相続財産が集中し、税率が上がる
一次相続で財産が分散されず、お母様に集中した結果、二次相続の対象となる財産額が非常に大きくなります。相続税は、財産額が多ければ多いほど税率が上がる「累進課税」を採用しています(最高税率55%)。
財産が集中した結果、非常に高い税率が適用され、一次相続で「ゼロ」だった反動が、すべて二次相続でお子様たちにのしかかってくるのです。
まとめ
ご家族の状況は様々です。「残された配偶者の年齢」「配偶者固有の財産状況」「お子様たちの生活状況」など、多くの要因を考慮する必要があります。二次相続までに財産が大きく変動する可能性もあります。
ただ、安易に「今回の相続税がゼロになるから」という理由だけで、配偶者がすべての財産を相続してしまうと、結果としてご家族全体で大きな損をしてしまうかもしれません。
相続税は、どの財産を誰がどれだけ相続するかによって、将来の税額が大きく変わるものです。どうやれば、節税できるのかはご自身で判断せずに、相続に強い税理士に相談してください。
大切なのは、目先の一次相続だけでなく、その先の二次相続まで見据えた「遺産分割」を行うことです。専門家のシミュレーションを受けながら、ご家族にとって最も良い形での相続を実現しましょう。
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平成4年税理士試験合格。平成11年社会保険労務士試験合格。
さいたま市内の会計事務所に勤務後、現在地にて事務所開設。
平成20年㈱FP財産総合研究所を設立、令和元年不動産鑑定業者登録。
税理士、社会保険労務士、宅地建物取引士、FP1級技能士などの資格経験を生かして、主に資産運用・不動産の有効活用・相続対策等の相談を不動産業者、資産家から多数受けています。年間2回ほど北本市役所にて税務相談員を担当させていただいております。