遺言書を作成する際、多くの人が不安に思うことがあります。それは、「自分が亡くなった後、家族はこの遺言書を確実に見つけてくれるだろうか?」という問題です。

せっかく法的に有効な遺言書を作成しても、相続人によって発見されなければ、その遺言は存在しないのと同じになってしまいます。また、相続手続きをスムーズに進めるためには、相続開始後、できるだけ速やかに遺言書が相続人の手元に渡る必要があります。

この問題を解決する手段として、2020年から始まった法務省(法務局)の「自筆証書遺言の保管制度」が注目されています。この制度の最大の特長の一つが、遺言者の死亡後に、指定した遺族へ「遺言書が法務局にあること」を通知するシステムです。

この「通知機能」は、自筆証書遺言保管制度ならではの非常に大きなメリットと言えます。

 

「自筆証書遺言の保管制度」とは

「自筆証書遺言の保管制度」とは、ご自身で作成した自筆証書遺言の「原本」を、法務局(遺言書保管所)が有償で預かり、安全に管理する制度です。

この制度を利用することで、従来の自筆証書遺言が抱えていた多くの問題点を解消できます。
 

(1)紛失・改ざんのリスクをゼロに

 
遺言書の原本そのものを法務局が管理するため、自宅での保管と異なり、紛失や盗難のリスクがありません。また、相続人の誰かが自分に不都合な内容を書き換えるといった「改ざん」の恐れも無くせます。

 

(2)形式不備による「無効」を防げる

 
従来の自筆証書遺言では「形式不備」による無効が多発していました。「日付の記載がない」「署名や押印が漏れている」といった単純なミスで、法的な効力を失ってしまうケースです。

本制度では、保管所の担当官が民法の定める形式(日付、署名、押印など)に適合しているかを外形的にチェックしてくれます。これにより、形式不備での無効化を防止できます。

 

(3)家庭裁判所の「検認」が不要

 
従来の自筆証書遺言(自宅保管など)では、遺言者の死後、家庭裁判所に遺言書を提出して「検認」という手続きを経る必要がありました。これは相続人にとって時間と手間がかかる作業でしたが、法務局の保管制度を利用した場合、この検認手続きが一切不要となります。

 

(4)相続人による閲覧と情報共有

 
遺言者が亡くなった後、相続人や受遺者(遺言で財産を受け取る人)は、全国の法務局で遺言書の内容を閲覧したり、「遺言書情報証明書」(遺言書の写し)の交付を請求したりできます。

 

制度利用の注意点

この制度には、他にも多くのメリットがありますが、同時に利用する上での注意点も存在します。

制度を利用する場合は特定の様式(フォーマット)に従う必要がある、保管を申請できる遺言書は、以下の様式に従っている必要があります。

  • 用紙はA4サイズであること。
  • 記載は片面のみ(両面印刷は不可)。
  • 各ページにページ番号を記載すること。
  • 余白が厳密に定められている。
  • ボールペンなど消えにくい筆記具で記載すること。
  • 複数ページあってもホッチキス等でとじないこと。
  • 「内容」のチェックはされない。

法務局の担当官がチェックするのは、あくまで日付や署名・押印といった「形式」のみです。遺言の「内容」については一切関与しません。

例えば、記載された不動産情報が登記簿と異なっていないか、特定の相続人の「遺留分(最低限保障される相続分)」を侵害していないか、といった法的な問題点までは確認されません。内容に不安がある場合は、預ける前に第三者や税理士などの専門家に内容を相談しておくことが賢明です。

また、申請は本人が出向く必要があります。代理人による申請は認められていません。ご高齢の方やお体が不自由な方でも、ご自身で法務局へ行く必要があります。

 

「通知システム」の仕組み

(1)死亡時通知(遺言者が生前に指定)

 
これが最も画期的な機能です。遺言者は、遺言書を法務局に預ける際、「死亡時通知」の申し出ができます

これは、遺言者が亡くなった事実が戸籍に記載された時点で、法務局がその死亡情報を把握し、あらかじめ遺言者が指定していた特定の人物(最大3名まで)に対して、「〇〇様の遺言書が法務局に保管されています」という旨を自動的に通知する制度です。

通知の相手は、推定相続人の中から1名、または受遺者(遺言で財産をもらう人)や遺言執行者などを、遺言者が自由に指定できます。(※以前は1名のみでしたが、現在は3名までに拡充されました)

このシステムにより、遺言者が誰にも遺言の存在を告げずに亡くなったとしても、指定された人物には確実にその存在が伝わります。

 

(2)関係者への通知(相続人の誰かが閲覧した時)

 
遺言者が亡くなると、相続人や受遺者などの「関係者」は、法務局で遺言書を閲覧したり、遺言書情報証明書の交付を受けたりすることができます。

そして、関係者のうち誰か1人でも、この閲覧や証明書の交付請求を行うと、法務局は他の全ての関係者(相続人全員など)に対して、「遺言書が保管されています(そして、〇〇さんが内容を閲覧しました)」という事実を通知します

これによって、相続人のうちの1人が遺言書の情報を独占し、他の相続人に知らせない、といった事態を防ぐことができます。全ての相続人に情報が行き渡るため、透明性が担保され、その後の手続きも円滑に進むことが期待できます。

 

まとめ

2つの通知機能が組み合わさることで、

  • 遺言者が指定した人(死亡時通知)が、まず遺言の存在を知る。
  • その人が法務局で閲覧手続きを行う。
  • その手続きをトリガーとして、他の相続人全員にも遺言の存在が通知される。

という、確実な情報伝達が実現します。これにより遺言者の最後の意思を確実に実現するための強力なセーフティネットとなります。

もし、ご家族が亡くなられた後に法務局から通知書が届いた場合は、それは故人が大切なメッセージを遺している証拠です。速やかに最寄りの遺言書保管所(法務局)に問い合わせ、その内容を確認するようにしてください。

 

 


 
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