使いにくい「相続時精算課税制度」は2024年からどう変わるか
「生前贈与」とは、相続が起きる前、つまり相続で被相続人となる方が存命のうちに財産の一部もしくは全部を他者に渡すことです。相続とは違い、財産を贈与する相手とタイミングは贈与者の好きなようにできます。
贈与税の課税方式の一つである暦年課税では、年間110万円までの基礎控除が設定されていますから、この仕組みを利用して相続人となる方に毎年少しずつ財産を渡せば、相続税の節税となります。(この方法は取り組みやすく、活用される方も多いので、ベターな節税法とされています。)
ただ、この方法だと毎年110万円の範囲でしか贈与できないため(その範囲を超えると贈与税が課税されます)、高額の財産移転をする場合は時間がかかってしまいます。
実は生前贈与には課税方式の異なるもう一つの制度があります。それは「相続時精算課税制度」と言って、何と2,500万円を一括かつ非課税で贈与できるものです。
「2,500万円を一括かつ非課税で」と聞くとかなりお得な制度に感じますが、そんなにうまい話でもありません。実際には節税効果が薄く、活用には注意が必要になります。
ただ、2023年度の税制改正大綱によって相続時精算課税制度はほんの少しだけ使いやすくなりました。ただし、従来のデメリットが大きく改善されたわけではないので、扱いにくいことは変わっていません。
相続時精算課税制度について
(1)今までの制度内容
相続時精算課税制度は生前贈与の1種であり、「生前贈与で得た財産の合計金額が2,500万円を超えない場合、非課税となる」制度です。通常の生前贈与と課税方式が異なるのです。
通常の生前贈与は暦年の課税方式であり、年間110万円が贈与額から控除されます。この時の「年間110万円」というのは受贈者1人あたりの贈与額合計です。もし、複数人から同年に110万円ずつ贈与されたら、受贈者1人の贈与額合計が110万円を超えるので、贈与税が発生し、申告と納税をしなければなりません。
これに対し、相続時精算課税制度では一人の贈与者について贈与合計額に非課税枠が設けられています。よって、複数人の贈与があった場合、最大2,500万円の控除が人数分、非課税となります。
そして、贈与は一括であっても、年をまたいでの分割贈与でも構いません。もちろん、財産の内容について金銭はもちろん、不動産や株式等、形に制限はありません。(金銭以外の場合、財産の評価は贈与があった年の価値を基準にします。)
もし、2,500万円の範囲を超えた贈与があった場合、一律20%の贈与税が課税されます。これも暦年課税制度と異なる点です。(暦年課税制度では課税標準額が高いほど、高い税率が適用される累進課税制となっています。)
相続時精算課税制度には受贈者と贈与者それぞれに要件があります。
- 贈与した年の1月1日時点で贈与者は60歳以上
- 贈与した年の1月1日時点で受贈者は成年(18歳)以上
- 贈与者と受贈者は親と子か祖父母と孫の関係であること
この制度は本来、高齢の方が所有する高額の資産を次世代に移転させる目的で設けられました。次世代に財産が渡ることで消費の増大など、経済的な効果も期待できるからです。そのため、暦年課税方式と比べて、一括贈与で高額の控除を付けるようにしたのです。
(2)贈与分は相続時に課税対象に
同制度は2,500万円の非課税枠があることが魅力ですが、実は贈与された財産は、相続時に相続財産に含まれるため、相続税の課税対象になってしまいます。
この仕組みから、相続時精算課税制度とは贈与時に無税なだけで、税金の支払いを相続時に先送りにしているだけとも言えます。
もし、相続財産に加算された後の遺産総額が相続税の基礎控除額を超えるなら、相続税の申告と納付をしなければなりません。
改正後の相続時精算課税制度
今までは、相続時精算課税制度を選択すると暦年贈与に変更することが不可能でした。
しかし、2023年の税制改正では、相続時精算課税制度を利用しても暦年課税方式と同様に毎年110万円は控除することができることになりました。この控除分の110万円は相続開始時の相続財産加算の対象からも外れます。
加えて、年間の贈与額が110万円を超えないならば、申告も不要となりました。
従来の相続時精算課税制度であれば、相続時にすべての贈与を相続財産に加算され、年間の贈与が少額贈与でも毎年申告をする必要がありました。今回の改正で、これらのデメリットが解消されたため、相続時精算課税制度は使いやすくなったと言えます。
なお、制度変更は2024年1月1日以降の贈与からとなっています。
やはり、相続時精算課税制度は使いにくい
暦年課税との併用が可能となり、少額贈与での申告が不要になったため、相続時精算課税制度は活用しやすくなりました。
ただし、いくつかの利点が増えたとはいえ、「一度相続時精算課税制度を選ぶと、変更ができない」点は変わりません。要するに相続時精算課税制度を利用して移転した財産は、全てではないにせよ、年間の控除分を除いた分は相続時に相続税の課税対象となるのです。
つまり、節税の点では非常に効果が薄く、はっきり言えばそのような目的で使用すべきではありません。
そもそも、相続時精算課税制度は「早いうちに子供や孫に財産移転をしたい」と思う方のための制度です。また、贈与と遺産との合算が基礎控除額を下回る(=相続税がかからない)ことが想定されるのであれば、活用してもメリットがあります。
相続での手続きに比べ、贈与の手続きの方が簡単に済むからです。
繰り返しますが、節税目的であるなら、相続時精算課税制度ではなく、暦年課税方式を選択するべきです。
まとめ
相続時精算課税制度は多少使いやすくなりますが、節税効果としては従来の制度と同じく、あまり期待できません。
相続での節税をお考えの場合は、早いうちから専門の税理士に相談をすることがベストです。まずは無料相談等を利用してみては如何でしょうか。
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平成4年税理士試験合格。平成11年社会保険労務士試験合格。
さいたま市内の会計事務所に勤務後、現在地にて事務所開設。
平成20年㈱FP財産総合研究所を設立、令和元年不動産鑑定業者登録。
税理士、社会保険労務士、宅地建物取引士、FP1級技能士などの資格経験を生かして、主に資産運用・不動産の有効活用・相続対策等の相談を不動産業者、資産家から多数受けています。年間2回ほど北本市役所にて税務相談員を担当させていただいております。