教育資金一括贈与の特例とは 令和5年度改正で何が変わった
相続税を減らす目的で、生前贈与を検討される方は多いでしょう。
相続税は年間で非課税枠が設けられており、その範囲内であれば贈与税が生じない仕組みになっています。しかし、生前贈与には条件を満たすことにより、更に高額の贈与を無税にできる特例も存在します。
「教育資金一括贈与の特例」はそんな制度のうちの一つです。これは、子どもや孫のために教育資金を非課税で渡せるものです。
現在までに何度か改正され、令和5年度の税制改正においては、対象期間が令和8年(2026年)3月31日までに延長されています。
教育資金一括贈与の特例の概要
この制度の内容は、「贈与者がその子供や孫に教育資金の贈与をした場合、最大で1,500万円まで無税になる」というものです。
幼稚園から大学卒業まで、子どもの教育にはかなりのお金が必要です。
そのため、この制度は子供や孫に資金援助をしたいシニア世代に合っています。
適用条件を満たさなければなりませんが、高額の贈与が可能な点が魅力です。
通常の生前贈与の非課税枠が年間110万円なので、それと比較すれば金額はかなり大きいでしょう。
適用期限は税制改正により令和8年(2026年)3月31日までとなっています。
適用するための要件
(1)受贈者1人につき1,500万円が上限
教育資金一括贈与の特例の上限は受贈者一人につき1,500万円です。
異なる贈与者から1,500万円ずつもらった場合、1,500万円を超えた部分には贈与税がかかります。
合計額の3,000万円全てが無税になるわけではないので、注意です。
(2)対象となる受贈者と贈与者
受贈者の要件は以下のとおりです。
- 30歳未満であること
- 前年所得が1,000万円以下であること
受贈者は30歳未満でなければなりません。これは言い変えると、受贈者が30歳になる前に贈与された教育資金を使い切らなければならないということです。もし、使い切れなかった場合は残った金額に贈与税がかかります。
また、贈与を受ける前年の所得が1,000万円を超えていると、適用を受けることはできません。
十分な所得があるなら、贈与による援助は必要ないからです。
贈与者の要件は以下のとおりです。
- 受贈者の曽祖父母や祖父母・父母等、直系の関係にある尊属
贈与者の年齢はいくつでもかまいません。
また、贈与は一括でなく、複数回に分けても良いです。
(3)専用の金融機関で口座を開く
教育資金一括贈与の特例では、取り扱いのある信託銀行等に専用口座を作らなければなりません。
流れとしては、専用口座を開設し、その金融機関を通じて「教育資金非課税申告書」を提出した上で、教育資金を入金します。
口座に預けられたお金は受贈者が都度引き出せますが、教育目的以外に使用できません。
資金を使った場合は領収証を金融機関へ提出する必要があるからです。
教育資金の範囲とは
(1)学校等に支払われるもの
幼稚園や保育所、小中・高校、大学、特別支援学校等の教育施設へ支払われるもの(入学金や授業料、給食費等)が対象となります。
- 入学金、授業料、入園料、保育料、施設設備費、入学(園)試験の検定料
- 学用品代、修学旅行費、学校給食費、PTA会費
- 学校を通して購入した勉強用具など
これらの費用に使用するお金は1,500万円まで非課税にできます。
(2)学校以外の教育用途に支払われるもの
教育上必要なもので、学校ではなく他の業者から購入するものの一部も対象となります。
例えば、塾の授業料や習い事のレッスン料、通学のための定期代が当たります。
- 学習塾の月謝、スポーツ教室や美術教室等の授業料、学用品
- 通学定期代、留学渡航費用、入学や転入のための転居の際の交通費など
これらに使用するお金は500万円まで非課税にできます。
注意点ですが、(1)で紹介したものとの合計金額が1,500万円以内でなければ非課税になりません。
(1)の範囲で1,200万円、(2)の範囲の資金が500万円であれば、200万円分が贈与税の課税対象になってしまいます。
令和5年度の税制改正による変更点
(1)贈与者死亡時の残高は相続税課税対象になる
教育資金の贈与者が亡くなった際に資金が残っていた場合、そのお金は相続または遺贈によって取得したものとみなされます。つまり、相続税の課税対象になります。
ただし、以下のいずれかに該当していれば、例外として課税対象になりません。
- 受贈者の年齢が23歳未満
- 23歳以上の場合は学校等の教育機関に在籍していること
- または、教育訓練給付金支給対象の教育訓練を受講していること
しかし、令和5年度の改正では相続税の課税額が5億円を超える場合、前述の要件に該当しても課税されることになりました。
なお、受贈者が孫だった場合、世代飛ばしとして相続税が2割増になってしまいます。
(2)贈与税計算に一般税率が使用される
受贈者が30歳に達した時に贈与金が余った場合、余ったお金に贈与税が課税されます。
その贈与税計算の際、以前では税率を低く設定する特例税率が適用されていました。
しかし、令和5年度の改正でその処置が廃止され、すべての人に一般税率が適用されることになりました。
まとめ
教育資金一括贈与の特例は通常の生前贈与よりも非課税が大きいので、一括での贈与を考えている方にとっては魅力のある制度でしょう。
ただし、専用口座の開設や、資金引き出しの際の手続きなどで手間はかかってしまいます。
また、教育資金の残高には相続税や贈与税がかかってしまうので、税金を多く払ってしまうリスクもあります。
制度利用を検討している方は、一度税理士に相談されることをオススメします。
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平成4年税理士試験合格。平成11年社会保険労務士試験合格。
さいたま市内の会計事務所に勤務後、現在地にて事務所開設。
平成20年㈱FP財産総合研究所を設立、令和元年不動産鑑定業者登録。
税理士、社会保険労務士、宅地建物取引士、FP1級技能士などの資格経験を生かして、主に資産運用・不動産の有効活用・相続対策等の相談を不動産業者、資産家から多数受けています。年間2回ほど北本市役所にて税務相談員を担当させていただいております。