相続財産の調査は 相続開始後 に早めに完了すべき事項
相続における財産調査は、相続手続きに大きく影響するため、可能な限り迅速に進めないといけません。
また、漏れがあるといけないので正確性も同時に求められます。
本コラムでは、相続財産調査の必要性と各財産の具体的な探し方について説明いたします。
財産調査はどうして重要なのか
(1)相続放棄を判断するための指標となる
相続が開始後、相続人は単純承認、限定承認、相続放棄のいずれかの相続方法を選択することになります。
単純承認とは、故人の現金や預貯金、不動産やローンなど、プラス財産もマイナス財産もすべて引き継ぐことです。
限定承認とは、プラスの相続財産の範囲で債務も受け継ぐことです。
例えば、相続財産が、1,000万円の土地と、1,500万円の借金だった場合、債権者に土地と同額の1,000万円を支払えば、土地を取得することができます。
相続放棄は相続の権利を手放す行為のため、被相続人の財産一切を引き継ぎません。
なお、限定承認および相続放棄は「自己のために相続開始を知ったときから3ヶ月以内」という熟慮期間内に家庭裁判所に申述しなければなりません。
その判断をするためには、相続財産の全容を明らかにする必要があります。
マイナスの財産が多ければ、相続放棄を選択する材料になるからです。
ただし、熟慮期間があるので、財産調査はスピーディーかつ正確に行わなければなりません。
(2)正しい相続税申告をするため
相続税申告には正確な税額計算が求められます。
それには財産全容を明らかにした上で、不動産や株式などの財産を正しく評価しなければなりません。
不動産や株式の相続税評価方法はそれぞれ方法が異なります。
不動産であれば、土地には路線価方式や倍率方式が採用され、建物には固定資産税が評価基準となります。
株式は上場株式の場合、相続開始日の終値(おわりね)を基準に評価額を算出します。
非上々株式の場合、市場価格が存在しないので、評価は少し複雑になります。
ここで言いたいのは、預貯金と違ってこれらの評価には時間も手間もかかるということです。
つまり、早い段階で遺産内容を明らかにしていないと、相続税申告も間に合わないということです。
相続税申告期限は、相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内です。
期限を過ぎれば、加算税などのペナルティが課せられます。
預貯金の探し方
被相続人の預貯金の探し方ですが、まずは被相続人がどの金融機関を利用していたか調べます。
全ての支店にある故人の口座を調べてもらえますから、まずは亡くなった方が利用していた金融機関を特定しましょう。
通帳、キャッシュカード、郵便物が見つかれば、特定は容易です。
特定できれば、残高証明等を発行してもらえます。
ただし、手続きには、被相続人の死亡や請求者(相続人)との関係を示す書類(戸籍や除籍謄本など)が必要です。
金融機関によって他の必要書類は異なるので、事前確認を必ずしましょう。
手続きをするのが面倒だという方は専門家に代行してもらいましょう。
専門家に代行させたほうが、慣れている分手続きもスムーズです。また、時間の短縮にもなります。
相続不動産を探す方法
(1)最初に納税通知書を確認
被相続人が不動産を所有していたなら、「固定資産税」「都市計画税」がかかるので、4月から6月ごろに「納税通知書」が役所から送られていたはずです。
納税通知書には不動産の地番や家屋番号が記されているので、故人の自宅を探してみましょう。
(2)権利証・登記識別情報の確認
私道など、一部の不動産は納税通知書に記載されません。
その際は、権利証もしくは登記識別情報通知を探します。
どちらも不動産の権利等を取得した場合に発行されますが、取得時期によってどちらが発行されるか変わります。
(権利証は現在、廃止されています。)
(3)名寄帳の写しで確認
不動産がある場所=市区町村が判明している場合、管轄の市町村役場で、「名寄帳(なよせちょう)」の写しを請求しましょう。
名寄帳は市区町村管理の課税台帳であり、該当地区の不動産情報が記載されています。
名寄帳の良い点は、私道のような非課税不動産も載っている上、共有名義での物件も把握できる点です。
(納税通知書では共有名義の不動産は確認できません。)
名寄帳の写しを取得したら、役場にて「固定資産評価証明書」も請求します。
固定資産評価証明書とは、所有不動産の価値の目安を記したものです。
不動産の名義変更の際の添付書類でもあるので、取得しておきましょう。
(4)法務局で登記簿謄本(登記事項証明書)を取得する
いずれかの方法で、地番か家屋番号を特定できたら、法務局で登記簿謄本を発行してもらいます。
登記簿謄本を発行する目的は、故人が本当にその不動産の所有者であるかどうかを確認するためです。
所有者であれば、その人の名前と住所、取得原因や年月日が記載されているはずです。
美術品や車などの動産の探し方
美術品や車といった動産は被相続人の自宅に保管されている場合が多いですが、稀に貸金庫等に保管されている場合もあります。
貸金庫の存在が確認された場合は、漏らさないよう注意しましょう。
他にも貴金属なども相続財産になります。
価値の低いものは他の財産とまとめて良いですが、価値の高いものはリスト化しておき、専門の業者に鑑定を依頼しましょう。
債務の探し方
マイナス財産の大きさは、相続放棄や限定承認を判断する指標になるため、こちらも重要です。
債務については、被相続人の自宅に督促状や返済の明細書、消費者金融のキャッシュカードがないか調べます。
また、各信用情報機関(CIC・JICC・JBA)に対して、被相続人の信用情報の情報開示を求めて、過去のローンやキャッシングの契約等を把握する方法もあります。
まとめ
遺産の全容を明らかにする財産調査は相続でとても重要です。
相続放棄をするかどうかの判断もそうですし、正しい相続税申告をするためにも必要です。
解説した通りの方法で、ご自身で調査することもできますが、時間も手間もかかるので、専門家に任せてしまうのも良いでしょう。
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平成4年税理士試験合格。平成11年社会保険労務士試験合格。
さいたま市内の会計事務所に勤務後、現在地にて事務所開設。
平成20年㈱FP財産総合研究所を設立、令和元年不動産鑑定業者登録。
税理士、社会保険労務士、宅地建物取引士、FP1級技能士などの資格経験を生かして、主に資産運用・不動産の有効活用・相続対策等の相談を不動産業者、資産家から多数受けています。年間2回ほど北本市役所にて税務相談員を担当させていただいております。