銀行口座の凍結について
口座凍結とは「銀行口座から、現金を下ろすことはもちろん、引き落としや振込なども一切できなくなる状態」を指します。
被相続人の銀行口座についても、相続トラブルを避ける目的で、凍結され、原則的に取引ができなくなります。
何故、凍結されるのか
相続時に被相続人の口座が凍結されるのには理由があります。
- 相続財産の確定
- 相続人同士のトラブル回避
- 口座が不正に利用されるのを防ぐ
口座に入っている預貯金は相続財産であり、遺産分割が行われるまでは、法定相続人同士の共同所有物となります。
遺族であっても自由に引き出せる状態だと、相続人間でのトラブルを引き起こす可能性があります。そのため、口座凍結の処置が行われるのです。
凍結されるタイミング
口座凍結は相続開始後すぐにされるわけではありません。死亡届が市町村役場に提出されても、役場から金融機関に連絡がされることはないからです。
金融機関は以下の方法で名義人の死亡を確認してから、口座凍結を行います。
- 相続人等からの連絡
- 残高証明書の取得申請
- 新聞等のお悔やみ欄
- 葬儀の看板
中には名義人の死亡が確認されないため、口座がそのままになっているケースもあります。
引きおろせる状態にあえてしておくのも良いですが、色々なリスクを考えれば、名義人が亡くなった時点で、遺族側から銀行に連絡を入れた方が良いでしょう。
相続開始後の手続き
凍結された口座を再度利用するには、名義の変更を行います。必要な書類等は金融機関によって若干異なるので、事前確認が必要です。
書類に不備がなければ1~2週間程度で凍結が解除されます。
(1)遺言書がある場合
遺言書で預貯金の取得者が指定されているなら、遺産分割協議が不要となるので、凍結解除は簡易に行えます。
手続きに必要な主な書類は以下の通りです。
- 遺言書(検認済証明書あり)
- 遺言者の戸籍謄本
- 遺言執行者の印鑑証明書
- 遺言執行者の実印を押印した払戻依頼書
- 通帳及びキャッシュカード
(2)遺言書がない場合
遺言書がなければ、遺産分割協議で相続人全員が財産分割に同意する必要があります。同意がなければ、口座の凍結解除は不可能です。
手続きに必要なものは以下の通りです。
- 遺産分割協議書(法定相続人全員の署名押印があるもの)
- 被相続人の、生まれてから亡くなるまでの戸籍謄本
- 相続人全員の戸籍謄本
- 相続人全員の印鑑証明書
- 相続人全員の実印が押印された銀行所定の用紙(相続届)
- 通帳及びキャッシュカード
相続開始前にしておくべき対策
口座の凍結解除には簡単ではないので、お金を引き出すまでに時間がかかります。
被相続人の死後にある程度の現金が必要になる場合、凍結されてから困らないように、被相続人が存命のうちから対策をしておくべきです。
(1)口座からお金を引き出しておく
葬儀費用や生活費が必要なら、相続開始前にいくらか引き出しておきましょう。
引き出す時は、トラブル防止のために推定相続人全員の承諾を得ましょう。
(2)生命保険など死亡保険金等に加入しておく
死亡保険金は被保険者の死後に手続きを行えばすぐにお金を受け取れます。
手間がかからないので、相続開始直後の手元資金を増やす方法としてお勧めです。
(3)遺言書を作成しておく
遺言書がある場合、口座凍結解除の手続きも円滑に進みます。
遺言書がなければ遺産分割協議を行わなければならず、協議が長引けば凍結解除の手続きもできません。
(4)口座を整理しておく
故人の口座数が多いと管理や手続きが大変になるので、生前にできる限りまとめておいた方が良いでしょう。
外国の金融口座を所有している場合は、言語の違いから手続きも面倒になるので、できる限り解約をしておきましょう。
預貯金の仮払い制度とは
凍結口座が行われると、出金および振込や引き落としができませんが、実は一定限度までであれば遺産分割前でも出金が可能です。
この制度は、「預貯金の仮払い制度」と言って、近年の法律改正によってできました。
この制度を利用すれば、相続人たちは出金したお金で葬儀を出したり生活費を補ったりできます。引き出せるのは、以下の二項目のうち低い金額に該当するものです。
- 被相続人死亡時の預貯金残高×法定相続分×3分の1まで
- 150万円まで
上限額は金融機関単位なので、金融機関を跨って複数の口座がある場合は、出金可能な金額も増えます。
なお、この金額ではお金が足りないという場合、家庭裁判所で「仮処分」の手続きを行なえば、上限額を増やすことができます。
ただ、裁判所の認可をもらうには、必要性や妥当性を提示しなければならず、仮処分の決定を受けるまでのハードルは高いと言えます。
払戻しに必要な書類
各金融機関ごとに手続きや必要書類は異なりますが、以下の書類は必須です。
- 被相続人の生まれてから亡くなるまでの戸籍謄本もしくは法定相続情報一覧図
- 相続人の身分証明書、印鑑証明書
- 引き出しの申請書
注意点
故人の口座から預貯金を引き出して使用すれば、相続財産を処理したことになり、「単純承認」が成立します。単純承認は財産を相続したことになるので、相続放棄はできません。
ただし、預貯金の仮払い制度を利用して払い戻したお金の使用先が葬儀代等であれば単純承認とはなりません。生活費など自身のために使用すれば、成立します。
もし、相続放棄を検討しているなら、安易に預金の仮払いを利用するのは避けましょう。
また、制度利用には他の相続人の同意を得る必要はありませんが、遺産分割協議時にもめごとにならないよう、できる限り利用前に事前に連絡をしておくべきでしょう。
まとめ
相続した預金口座が凍結されてしまうと、お金は引き下ろせません。
預貯金の仮払い制度を使うのも良いですが、相続放棄ができなくなる可能性もあるので、慎重な対応が必要です。迷った場合は専門家に相談することをお勧めいたします。
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平成4年税理士試験合格。平成11年社会保険労務士試験合格。
さいたま市内の会計事務所に勤務後、現在地にて事務所開設。
平成20年㈱FP財産総合研究所を設立、令和元年不動産鑑定業者登録。
税理士、社会保険労務士、宅地建物取引士、FP1級技能士などの資格経験を生かして、主に資産運用・不動産の有効活用・相続対策等の相談を不動産業者、資産家から多数受けています。年間2回ほど北本市役所にて税務相談員を担当させていただいております。